『不平等・所得格差の経済学』
- 著者
- ブランコ・ミラノヴィッチ [著]/立木 勝 [訳]/梶谷 懐 [解説]
- 出版社
- 明石書店
- ジャンル
- 社会科学/経済・財政・統計
- ISBN
- 9784750358741
- 発売日
- 2025/02/13
- 価格
- 4,950円(税込)
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権力こそが不平等を生む最大の原因 過去300年の経済学史を深掘りする
[レビュアー] 田中秀臣(経済学者)
経済全体の動きをつかむには「不平等」に注目すべきだ。それ以外の現象はわき役にすぎない。不平等研究の世界的権威である著者のメッセージはこれに尽きる。18世紀真ん中のケネーから、スミス、リカード、マルクス、パレート、クズネッツ、冷戦経済学、そしてピケティまで、過去300年近い経済学の歴史を一望し、不平等に関する彼らの見解を深掘りすることで、権力こそが不平等をもたらす最大の原因であることを本書は明瞭にしている。
もちろん時代とともに権力を具体化する制度は変化している。どの時代でも豊富な富(才能・コネ)を初期保有している人たちが、圧倒的な権力を持つ。その権力によって他の大多数の人たちよりも所得や富の点で有利な立場が拡大再生産されている。これは資本主義経済だけでなく、興味深いことに共産主義諸国でも同じだ。前者は財産の私的所有が権力の源泉だが、後者は能力評価または上層部へのコネが権力につながる違いがあるだけだ。権力の大小関係が制度化されるかぎりどんな経済体制にも富や所得の不平等は存在することになる。
ただしいつまでも同じ権力構造は続かない。経済が成長するにしたがって既存の不平等は新しい不平等に姿を変える。国内の不平等のあり方が変化するだけではない。スミスやリカードの時代には議論の中心ではなかった国と国との不平等、さらには世界全体をひとつの社会としてみたときのグローバルな不平等だ。
だが、権力やそれを内在化した制度を無視しているのが、今日の正統派である新古典派経済学だ。新古典派経済学は、権力なき個人がベースである。個々人は自由に市場で取引して最適な経済状態を達成する。不平等は基本存在しない。この正統派に代わり、ピケティら権力の制度化を重視する経済学とその実証研究が進展している。300年近い不平等の経済学の旅は熱く続いているのだ。