『東京大空襲を指揮した男 カーティス・ルメイ』
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ニッポンを焦土にした男 初の評伝を今読む意義
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
カーティス・ルメイ
林操・評 『東京大空襲を指揮した男 カーティス・ルメイ』上岡伸雄[著]
カーティス・ルメイ。太平洋戦争末期のこの国(ニッポン)では鬼畜と呼ばれ、戦後のかの国(アメリカ)では英雄と囃され、60~70年代には世界中のリベラルから悪魔と疎まれた米国空軍きっての大物で、対日戦ではB29による無差別大空襲に踏みきり、朝鮮戦争やキューバ危機では核の使用を説き、ベトナム戦争では北爆を推し進めた。
そういうデッカい仕事を第二次大戦から東西冷戦まで、善悪の両岸で続けてきた男ゆえ、母国では伝記や回想録がある一方、ニッポンではこの『東京大空襲を指揮した男 カーティス・ルメイ』が初の評伝とか。
執筆のきっかけは、ベトナムを「石器時代に押し戻す」という彼の言葉(実は回顧録の共著者の創作)が小説や映画に頻出することだったという著者の上岡伸雄は、軍事や安保、現代史ではなく米文学の研究者。
そのせいか、フィクション向きの細部が満載――たとえば、原爆投下ではルメイ率いる航空軍は単なる「運び屋」だった、東京湾上の降伏文書調印式では上空を462機のB29が群舞した、敗戦後にB29が離着陸できる滑走路は北海道にしかなかった――。そして、通読して思い知るのは、目的のためなら手段を選ばない実用主義(プラグマティズム)の力と怖さ。
いや、怖いのはルメイ個人じゃない。戦争犯罪と知りながら無差別爆撃に走る彼を大出世させるアメリカこそ怖いし、原爆なしでも20万人以上を死なせた彼に勲一等を授けるニッポンこそ怖い。トランプ革命が進む今、読む価値倍増です。