『東京百話 地の巻』
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「野苺の歌」をうたいます
[レビュアー] 北村薫(作家)
書評子4人がテーマに沿った名著を紹介
今回のテーマは「美少女」です。
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ほぼ大震災以降からの昭和の東京――という怪物の姿を、あらゆるジャンルから集めた短文によって見つめるのが、種村季弘編『東京百話』全三冊です。
『天の巻』は澁澤龍彦「チンドン屋のこと」から横尾忠則「夢日記」まで。『地の巻』は池田彌三郎「銀座の横丁」から辻まこと「多摩川探検隊」まで。『人の巻』は海老名香葉子「竿忠の家」から色川武大「善人ハム」まで。
アンソロジー全体をおすすめしたくて、やや詳しく書きました。『地の巻』に収められているのが、高田宏の「美少女」です。
少女が立ち上って、「野苺の歌」をうたいます、と言った。
池袋にあった「居郷留」という酒場でのことでした。
当時、少女雑誌の編集者をしていた高田は、鰐淵晴子や浅丘ルリ子など、広く知られる美少女たちを何人も見ていました。しかし、その子たちと「比べてはいけないような美しさが、中学生のこの少女にはあった。出会った場所が酒場だったということが私のおどろきを大きくしていたかもしれないが、私の記憶の中ではこの少女がこれまで会ったうち一番の美少女である」。
気になる続きは、本で読んでいただければと思います。
わたしは、文中に出て来る、この少女が成長の後、父のことを書いた本も探して読みました。探すところも含めて、読書の喜びなのです。