『結局、どうしたら伝わるのか? 脳科学が導き出した本当に伝わるコツ』
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【毎日書評】伝わらない「認知のズレ」解消法。相手が動きやすくなる頼み方は?
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
しっかり伝えたはずなのに、じつは伝わっていなかった――。
ことばで伝えても、なかなか伝わらない――。
ビジネスシーンにもありがちなことですが、脳科学者である『結局、どうしたら伝わるのか?』(西 剛志著、アスコム)の著者によれば、このように“相手とイメージしたものが違い、上手く伝わらない現象”のことを脳科学では「認知のズレ」と呼ぶのだそうです。
仕事でもプライベートでも、コミュニケーションにおける言語化は大切。けれど最新の研究から、「言語化には限界がある」こともわかっているというのです。いいかえれば、ことばは万能ではないということ。
では、どうすればいいのでしょうか?
「うまくいく人とうまくいかない人の差がどこにあるか?」を研究してきた結果、この問いに対する答えは「コミュニケーション力」にあるのだと著者は述べています。うまくいきたければ、まずコミュニケーション力を磨くべきだということ。
うまく伝わらないのは、いってみれば「伝え方の免許」を持っていないようなものです。
無免許で伝えようとしていると、事故が多発します。
でも、「伝え方の免許」を持っていれば、事故を防ぐことができるのです。(「はじめに」より)
こうした考え方に基づく本書で明らかにされているのは、「脳科学から見たコミュニケーションの本質」。お互いがお互いを考えることで。伝えたいことが伝わるようになるというわけです。
きょうはそのなかから、第2章「相手の認知のクセをつかめ」に焦点を当ててみたいと思います。
「伝わる」とは認知のズレをなくすこと
コミュニケーションがうまくいくポイントは「認知のズレ」をなくすことであり、認知のズレが起きるのは、自分にも相手にも「バイアス」があるから。著者はそう述べています。
そこで重要なのは、バイアスを知ること。「相手がどういうバイアスを持っていそうか」を考えながらコミュニケーションをとれば、認知のズレを最小化できるわけです。なお、そうした考え方に基づき、ここでは「ひたEテスト」というテストが紹介されています。
[「ひたEテスト」のやり方]
額の部分に指でアルファベットの「E」という文字を書いてください。
書いたら、今度は「E」の字の縦棒部分が、自分から見て額の右側にきたか、左側にきたかを確認してください。(60ページより)
このテストによってわかるのは、自分が“自分視点”の人か、はたまた“他者視点”の人かということ。自分から見た「E」を書くか、相手から見た「E」を書くかが大きな意味を持つわけです。
具体的には、自分から見て右側に棒がくる人は相手から見た「E」を、そして左側に棒がくる人は自分から見た「E」を書くようなのです。
自分視点が強い人は、自己中心性バイアスが強いということになります。
自己中心性バイアスが強い人の特徴はこんなことがあります。
●自分の考えは常に正しいと思いがち
●人の話をちゃんと聞いていない
(62ページより)
自己中心性バイアスが高い人は人から命令されることを嫌うもの。そこで、「すごいですね」というように相手の自己中心性バイアスを刺激し、適切なタイミングでお願いごとをするべき。そうすれば、相手がこちらの希望に応じてくれる可能性が高まるということです。(58ページより)
上司をなぜ無能だと思ってしまうのか?
部下が上司を優秀だと思えないことには理由があり、その大きな要因が「命令」だそうです。命令をする上司は、部下から無能扱いされやすくなるということです(著者は、命令はダメなコミュニケーション法だと断言しています)。
ここでいう「命令」とは「これをするようにいいつける」というようなものではなく、「自分の意見を前面に押し出し、部下がNOといえない雰囲気をつくる」「これまでのやり方にこだわり、ほかの人に有無をいわせない」など、早い話が命令です。
一方で部下からの評価が高い上司は、命令は極力使わないもの。命令ではなく「選択権」を部下に与えているというわけで、そうした上司がよく使っているのがBYAF法(あなたに任せる法)というメソッドなのだそうです。
効果は科学的にも証明されており、世界でたくさんの論文が発表されている信頼性の高い方法なのだとか。
やり方は簡単です。
自分の意見をいろいろ伝えます。
そして、ポイントは最後のところです。
「最後はあなたの判断に任せます」「最終的にはあなたの自由です」
そう伝えて終わるのです。
つまり、自分の意見を押し殺すわけではなく、ちゃんと伝えつつ、選択を相手に委ねる。これがうまくいく人のコミュニケーションです(BYAF法は、But You Are Free)を略したものです)。(64ページより)
いうまでもなく、この方法のポイントは最後の部分。あれこれと話をしたら、最後に「きみの選択に任せるよ」と選択権を渡すことです。選択権が自分にあると、それは「自分ごと」になりやすいもの。そのため、自分で判断して行動に移しやすくなるわけです。
このひと言を添えただけで、相手の行動の確率が2倍に上がります。(65ページより)
著者のこのことばは、信じてみる価値がありそうです。(62ページより)
伝えたいことをきちんと伝えることは、たしかに簡単ではありません。しかし、決して不可能なことではないはず。だからこそ本書を参考にしながら、「伝えるスキル」を高めていきたいものです。
Source: アスコム