『ある地方高校生の日記 一九五〇~一九五三』秋浜悟史著/『唐十郎 襲来!』唐十郎ほか著

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ある地方高校生の日記 一九五〇〜一九五三

『ある地方高校生の日記 一九五〇〜一九五三』

著者
秋浜悟史 [著]
出版社
松本工房
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784910067247
発売日
2024/11/15
価格
3,960円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

唐十郎 襲来!

『唐十郎 襲来!』

著者
唐十郎 [著]
出版社
河出書房新社
ジャンル
芸術・生活/演劇・映画
ISBN
9784309257822
発売日
2024/11/21
価格
2,640円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『ある地方高校生の日記 一九五〇~一九五三』秋浜悟史著/『唐十郎 襲来!』唐十郎ほか著

[レビュアー] 長田育恵(劇作家・脚本家)

演劇の巨星 目映さの秘密

 巨星墜(お)つるとき、時代を照らし網膜を焼いた、あの目(ま)映(ばゆ)さの正体に触れたいと願う。また巨星の欠片(かけら)は後継者たちの血肉に宿り、光(こう)芒(ぼう)が次世代の創造をも生み出していくことに熱くなる。秋浜悟史。唐十郎。現代演劇史に名を刻む巨星の軌跡とその継承を知る二冊を紹介する。

 秋浜は劇作家・演出家。昭和九年(1934年)、石川啄木の故郷、岩手県渋民村で生まれた。詩人の存在が絶えず意識される地で、少し上には予科練帰りやヒロポンに苦しむ先輩もいたという。本書は私立岩手高等学校で過ごした三年間の日記である。

 映画館に足(あし)繁(しげ)く通い、多くの本を読む。『ユリシーズ』を早いもの勝ちとばかり買い、カミュらの言葉を歌うように引用する。日常を描写する独創的で美しい文節にも惹(ひ)かれるし、自作の詩も豊潤。中でも将来の萌(ほう)芽(が)として、人物への眼(まな)差(ざ)しと会話の採集が特に印象深い。たとえば淡い恋心を抱いたEとの会話――『「空気不透明は春が近い証拠」とふざけたら「もっといい春を手に入れた」と言葉が返る。「どんな?」と問うと、「もったいないから、教えたくない」そうな。』――秋浜はかつて「劇詩人と呼ばれて死にたい」と望んだという。命の輝きを凝縮させる若き劇詩人が、もう、ここにいる。

 秋浜は1979年に大阪芸大に着任、のちに劇団☆新感線を旗揚げするいのうえひでのりを始め、古田新太、橋本じゅん、高田聖子、内藤裕敬ら多くの演劇人を育てる。本書には寄稿も充実、秋浜の肉声が蘇(よみがえ)る。「下品な芝居とは羞恥心を持たない芝居」「誤解、曲解こそ、我が真骨頂」など、秋浜が教えた矜(きょう)持(じ)が彼らの背骨となり、今も演劇界を牽(けん)引(いん)している。

 唐十郎は昨年五月に急逝。紅テントを率い、60年の安保闘争を原点に、マグマの情熱で地面に近い目線から人間を見つめ、路地の闇に劇を編んだ。本書は寺山修司・横尾忠則・渡辺えりら32名の発言・寄稿と最期の戯曲『海星(ひとで)』を収録。蜷川幸雄は唐との対談の中で「魔性の文字で書かれた唐の戯曲に、僕らとまったく違う『命』を貰(もら)った」と。巻末に唐の自筆ノートも複写掲載されている。その文字に、指を這(は)わせた。(松本工房、3960円/河出書房新社、2640円)

読売新聞
2025年3月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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