『営業戦略大全』
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【毎日書評】ものを「買うかどうか」を決めるのはたった数秒、その瞬間FMOTを最大限に活用する方法
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『営業戦略大全 世界レベルの利益体質をつくる科学的ノウハウ』(宮下建治 著、ダイヤモンド社)の著者は、1985年にP&Gジャパンに入社して営業キャリアをスタートさせたという人物。営業組織改革、取引制度改革などにも携わりつつ、2005年から取締役営業本部長を務めていたそうです。
2007年には日本マクドナルドに転職し、取締役上席執行役員としてさまざまな役職やプロジェクトに携わることに。現在は消費財メーカーやスタートアップ企業を対象にコンサルティングとアドバイザーを務めているといいますが、そんななかで実感することがあるようです。
それは、日本の市場ではいまなお前近代的な商習慣がまかり通っているケースが少なくないということ。だから市場が大きくなっていかず、消費者が求める製品が出てこないというのです。
しかしその一方、「前近代的な営業から近代的な営業へ」「非科学的な営業から科学的な営業へ」というように大きな転換を目指そうとしている企業が少なからず存在するのも事実。つまりは、そこがポイントになるわけです。
これからの営業に求められているのは、単なる商品やサービスの販売にとどまりません。流通パートナーとの戦略的な協働や、お客様の価値創造、共感を生み出す取り組みこそが求められているのです。そのためには、個々の営業のスキルやマインド、流通の仕組みや取引制度、営業組織を変えていくことが必要になります。(「はじめに」より)
だとすれば、「いかにして変えていくか」を知りたいところ。そこで本書において著者は、そのために必要な考え方とノウハウを凝縮しているわけです。
きょうはそのなかから、第6章「顧客を減らさず『値上げ』を可能にする方法」に注目してみたいと思います。
消費者は購入するかどうかを数秒以内に決定する
多くのマーケターは、お客様の購買体験価値を実現する場所を、「第一の真実の瞬間(FMOT:the First Moment of Truth)」と定義しているそうです。
「第一の真実の瞬間」とは、消費者が商品に対して初めての印象を持ち、購買決定を行う瞬間のこと。店頭で商品を見たとき、その商品を購入するかどうかを数秒以内に決定する重要な瞬間とされているわけです。
「第一の真実の瞬間」は商品とお客様とのタッチポイントの一つであり、消費者の購買行動に大きな影響を与えるだけでなく、ブランドイメージの形成や競争力の向上にも寄与します。
この「第一の真実の瞬間」において、単なる商品やサービスの提供を超え、心地良く、便利で、記憶に残るような「経験」を提供することができれば、「より高い購買経験価値」と「お客様の反感を買わない適正価格」との価値交換が可能になるのです。(146ページより)
なおP&GのグローバルCEOであったアラン・ラフリー氏は、2000年に商品の購入時と利用時の「2つの真実の瞬間(第一と第二)」の重要性を提唱したそう。そして真実の瞬間はその後さらに発展し、以下の4つに分類されるようになったのだといいます。(148ページより)
・「FMOT(第一の真実の瞬間:店舗で購入の瞬間)」
・「SMOT(第二の真実の瞬間:購入後の利用体験)」
・「ZMOT(ゼロの真実の瞬間:オンライン検討など、購買前の顧客接点)」
・「TMOT(第三の真実の瞬間:商品利用後、経験を他人と共有する瞬間)」
(148ページより)
もっとも購買に影響を与える「FMOT(第一の真実の瞬間)」
とりわけ「FMOT(第一の真実の瞬間)」は、もっとも購買態度・行動に影響を与えるものとされているようです。そして「第一の真実の瞬間」を最大限に活用するために、戦略を練り、次の5つを実行する意義があるそう。
1. 購買決定の場
消費者は商品を物理的に見て、触れて、感じ、人と情報に接して解釈し、好意を感じ、脳の判断を通じて購入決定をするもの。そのため、瞬間的に反応するようなインパクトの強い視覚刺激は、購入決定の重要な要素となるわけです。
また、商品が消費者の期待やニーズに合っているかを現場、現物によって直接確認できるため、商品の便益や機能、効能を理解し、価値を実感してもらうことが大きな意味を持つことになります。
2. ブランドの印象形成
「FMOT」は、消費者がブランドに対して抱く印象やイメージを形成する重要な機会。商品のパッケージデザイン、陳列プレゼンテーションなど、視覚的にブランドイメージを際立たせ、消費者の印象を形成しやすくするのです。
人と心を通わせたり、店へのロイヤリティが高まると、継続につながるはず。そのためオンラインではできない“密な関係”をつくることが可能だということです。
3. 競争上の優位性
そもそも売り場はメーカーに所有権も使用権もなく、競合他社としのぎを削る限られた小売業の所有するスペース。メーカーにはコントロールできないので、そのなかで店頭での商品露出量を拡大し、目立つ陳列やプレゼンテーション(POPを含む)によって視認性を高めたものが勝者になるわけです。
商品機能・便益を活用すれば、他の商品よりも選ばれやすくなり、競争上の優位性を確保することができるのです。
4. 顧客体験の向上
「FMOT」は商品の見つけやすさ、情報の明確性、購入プロセスの円滑さなどがポイント。それらが購入体験のお客様満足度に直接影響するのです。お客様が「FMOT」で心地よい体験をすることで、リピート購入や口コミによる推奨、好意的なカスタマーレビューの可能性が高まることでしょう。
5. フィードバックと関係構築の機会
「FMOT」は、お客様が購買体験中、もしくは購入直後、使用直後の記憶の新鮮なタイミングで、お客様から店舗従業員へ直接フィードバックをもらう機会を提供してくれるもの。商品改良・サービスのよりよい対応に役立つだけでなく、対話を通じてお客様との関係構築の機会も得られます。
このように「FMOT(第一の真実の瞬間)」は、きわめて重要なマーケティング上のタッチポイントになるわけです。(148ページより)
著者が指摘しているように、前近代的な営業を漫然と続けているだけでは、これからの時代をリードしていくことは困難なのかもしれません。だからこそ本書を活用し、次世代の営業戦略を身につけておきたいところです。
Source: ダイヤモンド社