『モンスーン経済』
- 著者
- ティルタンカル・ロイ [著]/小林 和夫 [訳]
- 出版社
- 名古屋大学出版会
- ジャンル
- 歴史・地理/外国歴史
- ISBN
- 9784815811761
- 発売日
- 2025/02/04
- 価格
- 3,960円(税込)
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『モンスーン経済 水と気候からみたインド史』ティルタンカル・ロイ著
[レビュアー] 岡本隆司(歴史学者・早稲田大教授)
乾燥地域が内陸にひろがるアジアは、多湿の地帯も少なくない。水は希少でなければ過多、干(かん)魃(ばつ)でなければ洪水である。
生活・生存に関わる水をいかにコントロールするか。アジアの経済開発には、それが前提条件をなす。
ところが適度な気候と水量の温帯で生まれた経済学・経済史学は、水の供給いかんを閑却しかねない。インドの経済成長も説明できないできた。モンスーンの影響で乾燥と多湿をあわせもつインドなら、その経済史研究は水と気候に着眼しなくてはならない。
インドは植民地化を経て、ようやく難渋な水の供給問題を認知する。その解決なくして、経済成長はおぼつかない。本書は環境・飢(き)饉(きん)・疫病・カースト・灌(かん)漑(がい)・季節労働など多角的な分析で、その経過を克明に跡づけた。「本当の謎」は「厳しい水資源の制約に直面している地域の経済的台頭」のプロセスにある。
グローバル・サウスが「台頭」して久しい。しかしわれわれは、その意味をどこまで把握しているのか。必要なのは何より通念に対する懐疑と再考なのである。小林和夫訳。(名古屋大学出版会、3960円)