『農政トライアングルの誕生』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『戦後日本農政と農業者』
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『農政トライアングルの誕生』佐々田博教著/『戦後日本農政と農業者』川口航史著
[レビュアー] 清水唯一朗(政治学者・慶応大教授)
構造変革への手がかり
時宜を得たと言うべきだろう。コメが、農政があらためて社会の関心を集めるなか、その構造に深く切り込む二冊が時を同じくして現れた。
農政はこれまでも盛んに論じられ、研究されてきた。しかし、その多くは政策を巡る利害や影響の力学に収(しゅう)斂(れん)していた。
この二冊は異なる。いずれも戦前から戦後にわたる長い期間を対象に、日本農政の構造がどのように生成されてきたのか、その因果の過程を丹念に描き出す。
佐々田は、政・官・業が絡み合う「鉄の三角同盟」の典型例とされる農政が、敗戦直後の農地改革、1947年の農協法、61年の農業基本法などによって利益誘導構造として組みあがっていった過程と論理を丁寧に解き明かす。
その論は短絡的な癒着批判ではない。意図せざる選択の積み重ねが、自己組織化をもたらし、しなやかな構造を生み出した。それはあたかも自然界で水が対流を起こすように、時代に応じて柔軟に姿を変え、続いてきた。そのダイナミクスを味わわせてくれる論述からは、構造がうねる、低い音がこだまする。
川口は、このトライアングルを支えた農協グループの動態に迫る。戦時下に組織された農業会が、戦後の民主化のなかでも生き残り、50年代から60年代初頭にかけて政治的な影響を築き上げる姿を浮き彫りにする。
今日の保守的なイメージとは裏腹に、農協は内に超党派的な志向を持ち、外では与党だけでなく社会党など多様な勢力と駆け引きを重ねる機変の組織であった。女性層にも目を配り、情報を、文化を提供することで組織の基盤を固めてきた。そこからは、地域に根ざして生きる人々のたくましい声が聞こえてくる。
構造を知ることは、変革の手がかりを得ることである。長年続いた保護主義的な農政は、今、緩やかに転機を迎えつつある。この二冊は、制度と構造、組織と人々から、日本の農政の本質を見極める視座を与えてくれる。次なる変革へ向けて、まさに今、読むべきだろう。(千倉書房、5280円/吉田書店、4180円)