「RPGのつくりかた――橋野桂と『メタファー:リファンタジオ』」さやわか著

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RPGのつくりかた

『RPGのつくりかた』

著者
さやわか [著]/アトラス [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
芸術・生活/諸芸・娯楽
ISBN
9784480818614
発売日
2025/02/05
価格
2,640円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「RPGのつくりかた――橋野桂と『メタファー:リファンタジオ』」さやわか著

[レビュアー] ドミニク・チェン(情報学研究者・早稲田大教授)

ゲーム制作 追跡6年半

 商業的な大作RPG(ロールプレイングゲーム)がどのように制作されていくのか、その発案から完成までをディレクターやスタッフたちへの6年半にわたるインタビューを通して追跡した労作である。ゲーム制作過程を時系列で追った類書は日本語では少なく、英語文献でもここまで長期間のものは珍しい。それだけでも資料的価値が高いが、さらに面白いのは当該のゲームタイトルが発売された直後の今、読めるということだ。生粋のゲーマーである私は、ゲーム『メタファー』をプレイしながら、500ページ以上に及ぶ制作過程の証言を読み進めるという僥(ぎょう)倖(こう)を噛(か)み締めた。

 読者は、ディレクターの橋野桂を中心とした100人近いチームがRPGを一つ作るために要する分担作業の膨大さと複雑さに圧倒されるだろう。実際にプレイしてみると、何気ない画面展開の一つひとつが実に綿密に設計されていることに気づく。そして、チームメンバーの各自が6年もの間、自分たちの創造性を信じながら辛抱強く制作を続けた胆力に驚かされる。この間に大小1万件以上の修正指示を判断してきた橋野の共同創作観からは、ゲーム制作者でなくても「良いものを作り出すこと」に対する観念を揺さぶられるだろう。

 さらに興味深いのはゲーム『メタファー』の内容が、ファンタジー世界を舞台としているにもかかわらず、「選挙」というシステムを基軸に物語が展開するため、混迷する政治状況を生きる現代社会のある種の鏡像として受け止められることだ。そこでは現実世界の社会制度が一種のユートピアとして夢想されていると同時に、昨今の民主主義の衰退を喚起する描写に感情移入させられる。本書と『メタファー』を併せて経験すると、ゲームは文芸とは異質な表現形式ではあるが、優れた芸術作品と同様にプレイヤーの世界の見方を変えうる力を持つということの力強い証左であると感じた。ATLUS監修。(筑摩書房、2640円)

読売新聞
2025年4月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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