<書評>『PRIZE-プライズ-』村山由佳 著

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PRIZE―プライズ―

『PRIZE―プライズ―』

著者
村山 由佳 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784163919300
発売日
2025/01/08
価格
2,200円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『PRIZE-プライズ-』村山由佳 著

[レビュアー] 重里徹也(聖徳大特任教授・文芸評論家)

◆直木賞に焦がれる女性作家

 一人の女性作家を中心にその周囲を立体的に描く長編小説。彼女は48歳。ライトノベルの新人賞でデビューしたが、一般小説に転じて、何冊もベストセラーを出している。書店員からも人気があり、本屋大賞も受賞した。映像化された作品も多数ある。

 軽井沢で優雅に暮らす彼女は、何不自由なく作家生活を謳歌(おうか)しているように見える。しかし、心の底に激しい飢えがある。何を渇望しているのか。直木賞がほしいのだ。

 これまでにさまざまな文学賞にノミネートされた。直木賞も2度候補になった。しかし、受賞できない。彼女の焦りと不満は、周囲を巻き込んでいく。現代日本のエンターテインメント系の文芸システムをめぐって、人間模様が繰り広げられる。

 小説は3人の視点で進んでいく。1人はこの女性作家。矜持(きょうじ)と不安が絶えず入れ替わり、心に落ち着きがない。小説を書くことに熱い情熱は持っており、能力の低い編集者には容赦がない。本を多くの読者に届けることにも熱心で、サイン会や書店回りの労力は惜しまない。

 あとの2人は文芸編集者だ。1人は「南十字書房」の小説誌「南十字」の女性編集者。入社してすぐにこの雑誌に配属されて5年。入社前から、この作家の愛読者で、作家と濃密な人間関係を築く。

 2人目は文芸春秋が出している小説誌『オール読物』の男性編集長。会社名も雑誌名も実在する。入社して20年余。深刻な出版不況に苦しんでいる。問題の女性作家を担当する一方で、直木賞選考会では司会をするなど、システムの一端を担っている。

 物語はこの女性作家の夫婦関係、編集者それぞれの悩みと迷い、新しい小説をつくり出す喜びと苦しみなど、激しい感情が渦巻くさまを描いていく。優れた小説とは何かという問いも繰り返される。

 それに振り回される人間だけでなく、直木賞そのもののありようも浮き彫りにされていた。選考委員たちの小説観が編集者たちを教育し、日本の小説に少なからぬ影響を与えているのも印象的だった。

(文芸春秋・2200円)

1964年生まれ。作家。『風よ あらしよ』など著書多数。

◆もう一冊

『藍を継ぐ海』伊与原新著(新潮社)。最新の直木賞受賞作。短編集。

中日新聞 東京新聞
2025年4月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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