『満知子せんせい みどり、真央、昌磨と綴った愛の物語』
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<書評>『満知子せんせい みどり、真央、昌磨と綴(つづ)った愛の物語』高橋隆太郎 著
[レビュアー] 増田明美(スポーツジャーナリスト・元マラソン選手)
◆「大好き」で一人一人を強く
観(み)るスポーツとして一番好きなのがフィギュアスケートだ。マラソンという評価型スポーツをしていた私にとって表現型スポーツのフィギュアは華やかで美しい。憧れてしまう。何度か日本選手権を見たことがあるが、観客の目がリンクの一点に集まる静けさを観て、指先まで震えてしまった。あの雰囲気の中で競技する選手達は、超人である。
選手で特に好きな人は、伊藤みどりさんだ。ジャンプの迫力は言うまでもないが、人として面白そうな雰囲気を持っている。彼女の恩師、山田満知子さんの足跡に迫る本書を読んで、その思いが膨らんだ。満知子先生とみどりさんは母と娘のような関係である。実際、みどりさんは子どもの頃から山田家で生活していて、影響をすごく受けている。教え子にも取材したこの本で、みどりさんのことがよく分かるのも嬉(うれ)しい。今をときめく大谷翔平さんなど「天才」と言われる人が持つ感覚的なことが、みどりさんの言葉で紹介されている。そういえば、かつて私も天才少女と言われていたなぁ。
満知子先生はとにかくチャーミングな人だ。スポーツの世界に限らず、人が育つ時はこういう人のそばにいる時だと思う。みどりさんはじめ、浅田真央さんや村上佳菜子さん、宇野昌磨さんなど次から次へと魅力的な選手が育っていく。それまでの私の先生に対する印象は「勝つための指導」の達人かと思っていた。それが意外にも「普及型の指導」だった。自然とフィギュアスケートが好きになっていく感じ。山田ファミリーは「スケート大好き、先生大好き」で一人一人が強くなっていき、その中に五輪選手も誕生していく。
大切なのは、きちんとした楽しい日常と、努力の積み重ね。また、競技も大事だけれど「愛される選手になりましょう」が口癖である。81歳の現在もリンクサイドに立つ満知子先生。宇宙から地球を見たら、先生のいる名古屋のリンクには美しい光がさしているのではないか。先生の「華やいで」の言葉をかみしめながら、そう思う。
(中日新聞社・1650円)
中日新聞運動部記者。本書は本紙連載「満知子せんせい」を書籍化。
◆もう一冊
『フィギュアスケートとジェンダー』後藤太輔著(現代書館)