低身長で「こびと」と見下され才能を評価されない少年と、女性ゆえに夢がかなえられない少女が出会った…美しく哀切たるラストが絶品

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彼女を見守る

『彼女を見守る』

著者
ジャン=バティスト・アンドレア [著]/澤田 直 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784152104120
発売日
2025/03/05
価格
3,630円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

激動の時代、北イタリアで出会ったソウルメイト。ゴンクール賞受賞作

[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)


※画像はイメージです

 フランスでもっとも権威ある文学賞、ゴンクール賞を受賞しているジャン=バティスト・アンドレアの『彼女を見守る』は、1986年、82歳の男が北イタリアにある修道院で死の床に臥している場面から始まる。男の名はミケランジェロ・ヴィタリアーニ、通称ミモ。軟骨無形成症を患っているので背丈は140センチしかないけれど、彫刻家として比類なき才能の持ち主だ。物語は、臨終間際のミモが波瀾万丈の生涯を回想するという形で展開していく。

 亡父と同じく彫刻を生業としているおじさんに連れられ、ジェノヴァに近い小村にやってきた1917年。オルシーニ侯爵が支配するこの村で、13歳のミモは運命的な出会いを果たす。それは侯爵令嬢のヴィオラ。生年月日を同じくする2人は互いをソウルメイトと認め、身分の差をものともせず交流を深めていく。

「こびと」と見下され、その才能を正当に評価してもらえないミモ。3歳で文字が読めるようになって以来、読んだ本を完璧に覚えているような天才でありながら、女性ゆえに夢がかなえられないヴィオラ。物語はこの2人の成長と挫折、失意と希望、友情と愛、別離と再会を、第一次世界大戦後半から第二次世界大戦後までにあたるイタリア激動期を背景にドラマチックに描いていくのだ。

 その要となるのが、ミモの最後の作品「ピエタ」。十字架から降ろされた息子キリストを抱いて悲嘆に暮れる聖母マリアを彫り大傑作と評判をとったこの像が、なにゆえミモが後半生40年間を過ごした修道院にひっそり隠されるに至ったのか。この像がミモにとってどんな意味を持つのか。芸術家が生まれるまでを描く小説であり、プラトニックな愛にまつわる小説であり、魅力的なキャラクターが跋扈する小説であり、ジェンダーや格差をめぐる小説であるこの作品が、最後に読者に見せる貌の美しさと哀切たるや! 絶品エンターテインメントとして激賞したい。

新潮社 週刊新潮
2025年4月17日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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