『シスター・レイ』
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元フランス警察特殊部隊のエースがヤクザ、外国人半グレ集団と戦闘開始
[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)
東京の下町を舞台にした小説というとまず思い浮かぶのは捕物帳か。あるいは人情味あふれる長屋ものとか。そうした古き良き下町小説に馴れた向きならいろんな点で目を見張るであろう現代の下町小説が、墨田区を主要舞台にした本書である。
能條玲は墨田区の困っている外国人を何度も手助けしたことから“シスター”と呼ばれ慕われる三八歳の予備校教師。今日も母親の在宅介護を頼んでいるフィリピン人女性の依頼で、特殊詐欺に巻き込まれたらしい彼女の息子の行方を捜すことに。捜し出した彼・乃亜が洩らしたのは、犯罪のネタ元リストをめぐる暴力団浦沢組と半グレベトナム人組織のトラブルの渦中にいるということだった。
玲は、べトナム人組織の方に知り合いがいるから話をつけてみるというが、その頃すでに浦沢組が乃亜の家族に手を伸ばしていた。そして、ベトナム人組織もまた……。
話をつけてみるって、フツーの予備校教師が半グレ相手に話なんかつけられるはずはない。実は能條玲は元フランス警察の特殊部隊のエースで、警察庁のエリート官僚ともツーカーの間柄なのだ。もっとも訳あって長年暮らしたフランスから帰国せざるを得なかった玲は、警察とはお近づきになりたくなかったのだが。
そんなわけで、ヤクザだろうが、半グレだろうが、西欧のテロリストと死闘を繰り広げてきた玲にとって敵ではない。アクロバティックな肉体活劇、パルクールや身の回りの物品を駆使して臨機応変に戦うその姿は、銃器活劇とはまた異なる痛快さを味わわせてくれよう。
驚くべきは、出だしの巨大な隅田川東団地のように、現実でも下町の団地に外国人入居者が急増しているらしいこと。そして「今や外国人犯罪組織は、新宿、上野、錦糸町のような繁華街ではなく、住宅街の一画に拠点を置いていることが多い」ということ。下町に隠された新たな国際謀略の構図がここにある。