『「深夜」の美学』
- 著者
- 菅原 正豊 [著]/戸部田 誠(てれびのスキマ) [著]
- 出版社
- 大和書房
- ジャンル
- 文学/日本文学、評論、随筆、その他
- ISBN
- 9784479394464
- 発売日
- 2025/03/15
- 価格
- 1,980円(税込)
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ゲリラ的な遊び心に満ちた企画はユルそうでひねりが効いた計算あり
[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)
テレビ東京系『出没!アド街ック天国』がスタートしたのは1995年春のことだ。先月、30周年と放送1500回を記念する拡大スペシャル版も放送された。
開始当時から番組に携わってきたのが、制作会社ハウフルスを率いる演出家・菅原正豊だ。その名前を知る人は多くないかもしれない。しかし、『アド街』をはじめ菅原が手掛けた番組を見たことがない人は少ないだろう。『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系)、『愛川欽也の探検レストラン』(同)、『平成名物TV いかすバンド天国』(TBS系)、『タモリのボキャブラ天国』(フジテレビ系)、『どっちの料理ショー』(日本テレビ系)などだ。
共通するのは、それまでになかった斬新な企画であること。ゲリラ的な遊び心に満ちていること。しかも番組全体がオシャレで上品さや知性も漂わせているのだ。これらを生み出してきた菅原正豊とは一体何者で、
演出術とはどんなものなのか。
菅原は言う。「本当のマニアックはテレビにはならない。(略)『王道』をいかに崩せるか」だと。全部がパロディから始まっており、「いかに脇道で面白いことをやるかっていうことばかり考えていた」。基本は気分次第。「ほとんどその時々の自分の生理で考えている」から、確固たる演出論はない。従って「この本に書いてあることは、全部、後付けと言い訳です」と笑う。
だが、額面通りには受け取れない。ユルく作っているように見えて、相当な計算をしているのがスガワラ流だ。演出はストレートではなく、ひねりを効かせる。「普通にカッコいいことをしたら、照れちゃう」からで、出演者にも「素敵に恥をかかせる」のがディレクターの腕だ。
さらに「“みんな”がつくった番組はおもしろくないですよ。テレビって、“誰か”がつくるものなんですよ」と明かす。番組は商品ではなく作品だという矜持だ。