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ヒリヒリする切迫感と痛快な面白さ! アイドル界隈のディテールを生々しく描く
[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)
2013年に突然ハロプロにハマって以来、アイドルを描く小説はけっこうマメに読んできた。中でも記憶に残る1冊が、小林早代子の短編集『くたばれ地下アイドル』。単行本の初刊から7年も経った今年2月、その本が『アイドルだった君へ』と改題・文庫化されたから驚いた。どういう風の吹き回し? と思ったら、発売1カ月で重版が決まったそうで、世の中なにがあるかわかりません。
7年の間に、単行本表題作で描かれたメンズ地下アイドルは世間に知られた存在になり、男性アイドルグループ状況は一変。“推し”はふつうの言葉になり、アイドルファン文化はすっかり一般化した。その結果、この短編集ですばらしくリアルにヴィヴィッドに描かれる地下アイドルや地上アイドル、アイドルオタクたちの日常が、広く共感を呼べるようになったのかも。
国民的スターにまで登りつめた二人組女性ユニットの軌跡を語る「犬は吠えるがアイドルは続く」。男性アイドル5人組のメンバー(19歳)にハマった親友に引きずられるように、女子大生の主人公がそのアイドルの顔真似や振りコピにハマってゆく「君の好きな顔」。大手アイドル事務所の研修生(男性)を推す女性の生活と意見「寄る辺なくはない私たちの日常にアイドルがあるということ」……。どの短編もヒリヒリするような切迫感と痛快な面白さに満ちている。
朝井リョウ『武道館』(文春文庫)の主人公は中学3年生でオーディションを受けて合格し、6人組の女性アイドルグループNEXT YOUのメンバーとしてデビューを飾った日高愛子。夢は武道館のステージに立つこと……。アイドル界隈で起きたさまざまな出来事を参照しながら、女性アイドルのリアルをディテール豊かに生々しく描き出す。
昨年、劇場アニメ版が旋風を巻き起こした高山一実『トラペジウム』(角川文庫)は、乃木坂46の一期生だった著者の初長編。アイドルを夢見る主人公は自らメンバーを集めてグループ結成を目論むが……。以上、アイドルという窓で世界を切りとる3冊。