『コミンテルン』
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国際共産主義運動の熱き興亡
[レビュアー] 田中秀臣(経済学者)
コミンテルンはしばしば耳にする言葉だ。世界の重大事件を操る陰謀の黒幕としてこの名称を使う人たちを目にもする。佐々木太郎『コミンテルン』はそんな次元とは一切無縁だ。コミンテルンの起源は、19世紀前半の欧州を舞台にした国境をまたぐ労働者たちによる反体制の連携だった。『共産党宣言』でのマルクスらの各国労働者への結束の訴えはその象徴だ。だが国民国家の形成と資本主義の成熟がともに進む中で、欧州を自由に越境できた労働者は消滅し、国際的な反体制の動きは危機に瀕した。
これを救済したのが、ロシア革命(十月革命)の成功である。世界各地に共産主義を広める母体としてのコミンテルンは事実上、レーニンらボリシェヴィキが牛耳っていた。そして各国の実情を無視して自分たちの成功体験をごり押しした。これは国外だけではない。ソ連はそもそも各地のソヴィエト(評議会)による労働者たちの民主主義的運営によるべきだった。だが、レーニンらは自分たち以外の意見を認めず、原理主義的な動きを強めた。
この原理主義的な手法は、スターリン時代になって大規模な粛清を生み出す。また海外では、民族や宗教との対立を生み出すことにもなる。労働者のための世界を生みだすよりも、コミンテルンが徹頭徹尾、ソ連の独裁者とその取り巻きの都合で活動していたのがわかる。終わりを迎えたのも単にソ連に不都合だったからだ。コミンテルンの内実が実に鮮明に描かれている。