『カフェの世界史』
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『カフェの世界史』増永菜生著
[レビュアー] 櫻川昌哉(経済学者・慶応大教授)
カフェの始まりは17世紀半ばのイングランドだそうである。議会政治が定着しつつあったこの時期、コーヒーハウスに集まった市民は、政治について熱く語り合う。カフェを舞台に情報が行き交い、人々が交流を深めると、新聞が作られ、保険という金融ビジネスまで生まれた。
本書を読んでわかったことがある。カフェを真ん中におくと、世界史の授業でばらばらに習った政治や経済、そして思想や芸術がつながってみえる。カフェは文化を発信する場であるにとどまらず、文明の発展を促す十字路であったことに気づかされる。カフェを主役に歴史を書く意味はまさにここにあり、これこそが本書のメッセージである。
新しい政治思想が語られ、政治を変えてきたのもカフェであり、商売の話が熱く語られ、数多くのビジネスを生み出してきたのもカフェである。そして、売れない文士や画家たちが安いコーヒーをすすりながら、夢を語ったのもカフェなのである。カフェを舞台に世界の歴史はつながっている。コーヒーやエスプレッソ、ザッハトルテの歴史もまたおもしろい。(SB新書、1100円)