『維新京都 医学の開花』
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『維新京都 医学の開花 カルテを作ったお雇い外国人ヨンケル』藤田晢也著
[レビュアー] 岡本隆司(歴史学者・早稲田大教授)
舞台は「維新京都」。激動の幕末政局は尊皇が焦点だったから、朝廷の所在した京都も、くりかえし戦場になった。帰趨(きすう)を決めたのも鳥羽伏見の戦いである。
死傷者が出れば医療も欠かせない。京都にも維新まもなく近代病院の京都療病院ができた。京都府立医科大学の前身である。ウィーン生まれの医師ヨンケルが教師として招かれた。
日本の近代化と西洋医学、来日西洋人とのつながりは深い。蘭学(らんがく)の時代はシーボルトにポンペ、明治もヘボンやベルツなど、著名人はたくさんいる。その中ですっかり忘れ去られたのが、このヨンケルだ。碩学(せきがく)が母校にゆかりの深い外国人医師の事蹟(じせき)を発掘した。
かねて知られるヨンケルの貢献は、携帯麻酔器の発明である。本書はさらに近代精神病学や石炭酸消毒法の導入にくわえ、カルテを使った医療情報システムの創設まで明らかにした。そんなヨンケルがなぜ無名なのかにも思いをいたす。
ようやく視野に入ってきた京都発の近代医学とその立役者。歴史家・京都人として、もっともっとくわしく知りたいと思っては望蜀(ぼうしょく)だろうか。(京都大学学術出版会、2420円)