『AIを美学する』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『役に立たないロボット 日本が生み出すスゴい発想』
- 著者
- 谷 明洋 [著]
- 出版社
- 集英社インターナショナル
- ジャンル
- 哲学・宗教・心理学/心理(学)
- ISBN
- 9784797681536
- 発売日
- 2025/02/07
- 価格
- 1,045円(税込)
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『AIを美学する』吉岡洋著/『役に立たないロボット』谷明洋著
[レビュアー] 宮部みゆき(作家)
人間映す「核」と「容れもの」
人工知能とは人間にとって他者ではなく、いわば人間自身の姿を映し出す「鏡」のような存在である――『AIを美学する』の冒頭にある一文だ。だから著者は、AIの必要性や有効性ばかりではなく、人間が「面白いからものを作る」ことに着目してAIを語っている。SF映画やゾンビ、フランケンシュタインの話も出てくる、思いっきり文系のAI入門書だ。
ところで私の経験では、SFのなかのロボットについて話すときも、右記のような言い回しが使われる。ロボットは人間の鏡像で、ロボットしか登場しない小説であっても、そこに描かれているのは人間にほかならない、と。
ここで敢(あ)えて(単なる言葉の綾(あや)だというのはひとまず置いて)考えてみると、ロボットというのはハードウェアであり、それ単体ではよく動かないのだ。ソフトウェアとしての人工知能・AIが搭載されて初めて、実用的で個性のある「ロボット」が誕生する。鉄腕アトムだって、ドラえもんだってそうだ。だから本来はAIこそがキャラクターの核であって、外見の持つ意味は副次的であるはずなのだが、残念ながら私たちの感覚は違う。ロボットと言うときは「ハードウェアごと」のフォルムを(おそらくみんなで共通して)念頭に置き、人工知能と言うときは、それはプログラムでそれが存在しているのはスーパーコンピュータのネットワークの奥であってそれ自体には形はないと認識している。で、形がないくせに有能なAIは、私たちから見ると不可解で不気味なものなのだ。やはり、「容(い)れもの」は大事であるらしい。
そして、その容れものの方には今、様々な在り方が生まれている。労働力としての価値ばかりが重要なのではない。我が国には、仕事しないロボットがたくさん存在する。弱いロボット、ゆるいロボットの面白さ。人間の代わりに働くのではなく、人間と関わることでその生活を楽しくするロボットたち。『役に立たないロボット』は、仕事しないロボットたちの現場から見た現代日本社会論だ。「ヘボコン」の章は笑って泣けます。(平凡社新書、1100円/インターナショナル新書、1045円)