『「夢のエネルギー」核融合の最終解答』
- 著者
- アーサー・タレル [著]/田沢 恭子 [訳]/横山 達也 [監修]
- 出版社
- 早川書房
- ジャンル
- 自然科学/物理学
- ISBN
- 9784152103963
- 発売日
- 2025/01/22
- 価格
- 2,860円(税込)
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<書評>『「夢のエネルギー」核融合の最終解答』アーサー・タレル 著
[レビュアー] 森健(ジャーナリスト)
◆地球を救う技術 期待と現実
3年前の夏、岸田文雄首相(当時)は原子力政策を転換。「核融合炉」を次世代革新炉の一つとして挙げた。ただ、この技術がどんなものかよく知る人は多くないだろう。
本書は核融合炉の実現性に迫ったノンフィクションだ。著者は核融合研究で博士号をもつデータサイエンティスト。人物観察も巧みで表現にユーモアを交える筆力もある。
「これはSFではありません。今から10年のうちに答えが出るはずです」
ある会社のCEOはそう語る。どの関係者も実現への強い自信は変わらない。著者は米英独の主要研究施設や新興企業を訪れ、核融合炉の仕組みや必要性、歴史的経緯について掘り下げていく。
核融合の実現を急ぐのはエネルギー消費が増え、化石燃料の枯渇が迫る中、新しいエネルギー源が必要なためだ。核融合で使う三重水素はリチウムから作られるが、リチウムは海水中に大量にある。重水素・三重水素の核融合では石炭に比べて1000万倍のエネルギーが放出されるという。であれば、資源量も得られるエネルギーも大量だ。
付記しておくと、核融合と原発で使う核分裂とはまったく異なる。核融合は重水素と三重水素の原子核を高温、高圧の環境下で衝突させ、そこから発生するエネルギーを得る仕組み。重水素は放射性がなく、三重水素も極微量しかない。原発事故のメルトダウンのようなことは起きない。
むしろ核融合の問題は安定的、継続的にエネルギーを得られていないことだ。核融合には磁場閉じ込め方式とレーザー方式の2種類があるが、どちらも秒単位のわずかな時間しか成功していないのだ。二つの原子核を融合させるのは至難の業で、原発のように核燃料で沸騰した水でタービンを回すような発電の仕組みは一度も実現していない。
それでも核融合の関係者は夢のエネルギーの実現に強い確信をもっている。ある研究者は核融合の五つの課題を最後に提示する。地球を救う技術は本当に実現できるのか。本書の読後、「夢」への期待と現実に揺れるかもしれない。
(田沢恭子訳、横山達也監修・早川書房・2860円)
イングランド銀行シニア・マネージャー。情報工学、経済学が専門。
◆もう一冊
『グリーン・ジャイアント 脱炭素ビジネスが世界経済を動かす』森川潤著(文春新書)