<書評>『ネコはどうしてニャアと鳴くの? すべてのネコ好きに贈る魅惑のモフモフ生物学』ジョナサン・B・ロソス 著

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ネコはどうしてニャアと鳴くの?

『ネコはどうしてニャアと鳴くの?』

著者
ジョナサン・B・ロソス [著]/的場 知之 [訳]
出版社
化学同人
ジャンル
自然科学/生物学
ISBN
9784759824001
発売日
2025/02/13
価格
3,630円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『ネコはどうしてニャアと鳴くの? すべてのネコ好きに贈る魅惑のモフモフ生物学』ジョナサン・B・ロソス 著

[レビュアー] 杉本真維子(詩人)

◆愛を込め生態の謎解く

 トカゲ研究で有名なロソス博士による400ページを超えるネコの研究書。その進化の歴史を踏まえ、行動学、生態学、遺伝学までを駆使して、ネコという謎に迫る。的場知之の簡潔な訳も魅力だ。

 表題の「ニャア」という鳴き声を巡る考察が印象深い。「ニャア」は赤ん坊の声に代表されるような高音程に対するヒトの好みに「つけこむように」、ネコが進化させてきた可能性のある声だ。「ネコ科のどの種も、他個体によびかけるときはめったにニャアと鳴かない」。ただ、評者のネコのようにそもそも「ニャア」と鳴かないものも少数いるはずで、そのディテールの豊かさがネコの謎めきに拍車をかける。

 さらに、イエネコとその祖先のヤマネコとでは遺伝子の違いがわずかしか見られないという。つまりネコは「ほとんど家畜化されていない」のだ。ただここにも例外はあり、血統ネコの中のごく一部の品種は劇的な変化を遂げている。

 話題はいきすぎた「新品種作出」による負の影響にも及ぶ。スコティッシュ・フォールドの折れ耳などは全身の骨と軟骨の形成異常によるもので、彼らは進行性関節炎の痛みに苦しみ続けている。ペルシャは特殊な鼻の形態により呼吸器などに重大な問題を抱える。私たちが必ず知っておかなければならないことが記されている。

 飼育環境についての記述もリアルだ。安全面において室内飼いに勝るものはないが、ネコに外出を要求されれば、その身体的健康と精神的健康の両立を巡って飼い主はジレンマに陥る。何が正解かはわからないが、わからなさこそをロソス博士は最も大切にしている。研究のためにネコに重い「GPSカメラ」を背負わせるにしても、わからないからこそそのストレスを最小限に抑えようとする。

 ネコがいまだ謎に包まれている理由が少しだけわかった気がした。研究者たちの格別な愛情ゆえに、謎のままになっている部分もあるように見えるのだ。謎とは必ずしもネガティブなものではないことを本書は鋭く明示している。

(的場知之訳、化学同人・3630円)

進化生物学者。米セントルイス・ワシントン大教授。

◆もう1冊

『生命の歴史は繰り返すのか?』ジョナサン・B・ロソス著、的場知之訳(化学同人)

中日新聞 東京新聞
2025年4月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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