『ケロリン百年物語』
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銭湯好きの著名人も続々登場!「黄色い桶」の文化的な読み物
[レビュアー] 夢眠ねむ(書店店主/元でんぱ組.incメンバー)
あのケロリンが令和7年、つまり今年100周年を迎えるという。ケロリンで思い浮かべるのは、もちろん黄色い桶。本書のカバーにも当然ケロリン桶がプリントされているのだが、本当に申し訳ないことにケロリンそのものは解熱鎮痛薬だということを本書を読み始めて思い出したのである。桶を見てもケロリンという赤い文字の上にちゃんと緑の文字で「頭痛・生理痛・歯痛」とあるのに。
小さい頃はほとんど銭湯に行ったことがない私でもなぜかケロリン桶は知っていたし、泊まりがけで遊んでみんなで銭湯に行くなんてことが増えた大学生の頃にはお馴染みで、オタクを自覚した頃には限定グッズとしての“ケロリン桶コラボ”を目にするようになった。幾度となく訪れるレトロブームには必ずその姿があるし、様々なシーンで目にする機会があるというのは、商品の良さはもちろんであるがブランドを売ることに長けた会社だということがわかる。
監修の笹山敬輔氏は内外薬品株式会社の代表取締役社長および現在ケロリンを製造している富山めぐみ製薬株式会社経営戦略室長なのだが、なんと演劇研究者で芸能関係の書籍も多数執筆されている。そんな社長が「せっかくの機会なので、ケロリンを口実にして」萩本欽一さんと堺正章さんにインタビューしているのも面白い。萩本さんの「生活が豊かになって、なかなか運を使わなくなった」という話にハッとする。壇蜜さんや久住昌之さんをはじめ銭湯好きの方々のインタビューやコラムもたっぷりあり、各界の著名人がケロリンを軸に話をしている。
もちろん、アスピリンと桂皮を合わせたケロリンができるまでや、銭湯の桶を使う前代未聞の広告手法のため文字のプリントが消えてしまわないように「キクプリント」と呼ばれる熱処理をして樹脂にインクを染み込ませる技法を用いる話も……こんな文化的な読み物としての社史はなかなかないのではないだろうか。