薬より“黄色い桶”が有名になってしまった「ケロリン」が100周年!“まるで読み物”な社史を「夢眠ねむ」が語る

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ケロリン百年物語

『ケロリン百年物語』

著者
笹山 敬輔 [監修]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784163919621
発売日
2025/03/26
価格
1,430円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

銭湯好きの著名人も続々登場!「黄色い桶」の文化的な読み物

[レビュアー] 夢眠ねむ(書店店主/元でんぱ組.incメンバー)

 あのケロリンが令和7年、つまり今年100周年を迎えるという。ケロリンで思い浮かべるのは、もちろん黄色い桶。本書のカバーにも当然ケロリン桶がプリントされているのだが、本当に申し訳ないことにケロリンそのものは解熱鎮痛薬だということを本書を読み始めて思い出したのである。桶を見てもケロリンという赤い文字の上にちゃんと緑の文字で「頭痛・生理痛・歯痛」とあるのに。

 小さい頃はほとんど銭湯に行ったことがない私でもなぜかケロリン桶は知っていたし、泊まりがけで遊んでみんなで銭湯に行くなんてことが増えた大学生の頃にはお馴染みで、オタクを自覚した頃には限定グッズとしての“ケロリン桶コラボ”を目にするようになった。幾度となく訪れるレトロブームには必ずその姿があるし、様々なシーンで目にする機会があるというのは、商品の良さはもちろんであるがブランドを売ることに長けた会社だということがわかる。

 監修の笹山敬輔氏は内外薬品株式会社の代表取締役社長および現在ケロリンを製造している富山めぐみ製薬株式会社経営戦略室長なのだが、なんと演劇研究者で芸能関係の書籍も多数執筆されている。そんな社長が「せっかくの機会なので、ケロリンを口実にして」萩本欽一さんと堺正章さんにインタビューしているのも面白い。萩本さんの「生活が豊かになって、なかなか運を使わなくなった」という話にハッとする。壇蜜さんや久住昌之さんをはじめ銭湯好きの方々のインタビューやコラムもたっぷりあり、各界の著名人がケロリンを軸に話をしている。

 もちろん、アスピリンと桂皮を合わせたケロリンができるまでや、銭湯の桶を使う前代未聞の広告手法のため文字のプリントが消えてしまわないように「キクプリント」と呼ばれる熱処理をして樹脂にインクを染み込ませる技法を用いる話も……こんな文化的な読み物としての社史はなかなかないのではないだろうか。

新潮社 週刊新潮
2025年4月24日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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