「損をすることの多い人生だった」ADHDの精神科医が語った、若いころにはわからなかった“ADHDの強み”

レビュー

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多動脳

『多動脳』

著者
アンデシュ・ハンセン [著]/久山 葉子 [訳]
出版社
新潮社
ジャンル
自然科学/医学・歯学・薬学
ISBN
9784106110856
発売日
2025/04/17
価格
1,320円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

ADHDの私がADHDの本に思うこと

[レビュアー] 和田秀樹(精神科医)


精神科医の和田秀樹さん

 不注意さや落ち着きのなさ、考える前に行動してしまう――そんな特性を持つADHD(注意欠如・多動症)。

「飽きっぽい」「忘れ物や失くし物が多い」「じっとしているのが苦手」「順番を待てない」「会話の流れを気にせず発言する」

 こうした行動の特徴から、日常生活の中でうまく環境に適応できず、困りごとを抱えることもあります。

 このように、ついネガティブに語られがちなADHDについて、スウェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセンさんは、全く違う角度から光を当てています。彼の著書『多動脳─ADHDの真実─』(新潮社)では、ADHDを「弱点」ではなく「能力」としてとらえ直し、その本質をわかりやすく伝えています。

『スマホ脳』や『ストレス脳』といったベストセラーでも知られるハンセンさんの考え方に、大きく共感を寄せたのが、精神科医の和田秀樹さんです。

 自身もADHDであることを公表している和田さん。60歳を超えた今だからこそ感じている「ADHDの強み」とは?

 ハンセンさんの『多動脳』に刺激を受けて書かれた、和田さんの書評をご紹介します。

 ***

 本書はADHDにも強みがあることを解明し、それを多くの人に伝える本だと宣言して始まる。そして著者のアンデシュ・ハンセンという売れっ子の精神科医も自らのADHD傾向が高いことを告白する。
 その時点で私も、この本を強く勧めたいという気になった。
 実は私自身、札付きのADHDで、それをほうぼうで公言している。
 私が本業の精神科医以外に文筆業、教育産業の経営、映画監督などを行い、それを多才と言ってくださる方もいるのだが、そうではなく、一つの仕事をやっているとすぐに飽きてしまうので、ほかの仕事につい手が伸びてしまうだけだ。
 それが若いころは「強み」とならなかった。
 いろいろなことに手を出すいい加減な人間とみなされ、とびぬけた才能がないこともあいまって、医者の世界でも、文筆の世界でも、教育の世界でも、映画の世界でも、二流扱いを受け、大した成功を収めることはできなかった。

 ところが『80歳の壁』がベストセラーになった頃からだろうか。人がうらやましがってくれるようになった。
 定年の年齢になっても、いろいろとやりたいことがあっていいなというのだ。
 私にしてみれば、やりたいことがあれば、あれこれ考える前に事を起こしていることが多く、おかげで損をすることの多い人生だった。今でも貯金はほとんどない。それなのに、やりたいことをやり続けてきたことがうらやましがられる。実際、私だってやりたいことをやっていると楽しい。うまくいけばなお楽しい。なるほどそういうものかと思った。
 そんな形ではあったが、私はやっと自身の強み、ひいてはADHDの強みを発見できたわけだが、本書は、さまざまな形でADHDの強みを教えてくれる。

新潮社
2025年4月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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