自分に合った面白いを探せば、面白く生きる方法はいくらでもある【又吉直樹×鎌田實 対談】

対談・鼎談

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17歳のきみへ 人生で大事なことは、目には見えない

『17歳のきみへ 人生で大事なことは、目には見えない』

著者
鎌田 實 [著]
出版社
集英社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784087817652
発売日
2025/04/25
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

自分に合った面白いを探せば、面白く生きる方法はいくらでもある

[文] 砂田明子(編集者・ライター)

又吉直樹、鎌田 實
又吉直樹、鎌田 實

重い心臓病を患う母、入院費を稼ぐために夜中まで働く父。子供の頃は貧乏で、決してめぐまれた環境ではなかったという医師の鎌田實さん。それでも時にがんばり、時にはがんばらず、「医者か寿司屋」という夢に向かって歩んでいきます。そんな鎌田さんが17歳の頃に考えていたことや、出会った人々を振り返りながら、「面白い人生」「自由な人生」を生きるためのヒントを、『17歳のきみへ 人生で大事なことは、目には見えない』に綴りました。刊行にあたり、又吉直樹さんとの対談をお届けします。

お笑いと本とサッカーが好きで、何をしても「恥ずかしい」少年時代を経て芸人になり、作家としても活躍する又吉さん。唯一無二の個性を守り育んだ、ご自身の17歳の頃について。そして鎌田さんの新刊の魅力について、お話しいただきました。

 ***

鎌田 實
鎌田 實

又吉 すごく面白くて、10代の頃に読めていたらよかったな、と思いました。どんな人も、少し視点を変えればいろんな可能性が広がっていることが、すっと入ってくるんです。これは、標語みたいに言葉だけを切り取るとなかなか受け入れがたいんですけれども、本には鎌田先生の実体験とともに書かれているので、腑に落ちる。僕は物事を悲観的に捉えてしまう10代でしたが、そんな僕のような子供でも、もしかしたら違う考え方があるとか、違う選択肢があるかもしれないと感じられる本だと思いました。

鎌田 うれしいですね、そう言っていただくと。又吉さんは17歳くらいのときに、いつか漫才をやりたいと、頭の片隅にでも思っていましたか? 

又吉 すでに思っていましたね。というのは小学生のとき、担任の先生が、みんな高校を卒業して大学に行くイメージを漠然と持っているかもしれないけど、この中で、3分の1しか大学に行けないぞと言ったんです。だから勉強をがんばれと先生は言いたかったんでしょうけど、僕が思ったのは、えっ、そんなに少ないんだと。じゃあ、勉強ができない自分は大学に行けないなと。で、どうやって生きていこうか考えたときに、テレビでお笑い芸人を見ると、大人なのに子供のようにふざけてて、その姿を見ると笑えてラクになれたんです。これなら自分もできるかもと、なんとなく将来のイメージを持つようになりました。

みんなと違う自分にこだわる

鎌田 又吉さんは『月と散文』というエッセイ集に、何をしても「恥ずかしい」を繰り返した子供時代だったと書かれていますね。恥ずかしいを全面に出している子供時代なのに、漫才をやるのは恥ずかしくなかったんですか? そこまで振り切ったほうが逆にラクだった? 

又吉 そうですね。理由は複合的なんですが、一つには恥ずかしいからいつも教室の端っこにいて、「又吉の声、聞いたことない」と女の子たちに言われているうちに、そのキャラクターを守らないといけない気がして余計しゃべりにくくなっていくんです。そうするとストレスのようなものが溜まって、自分の中がパンパンに膨らんでしまうんですね。でも、誰かが面白いことをするのを見て笑ったときと、自分が何かをしてみんなが笑ったときは、膨らんだものがパーンと弾ける感覚があったんです。僕は今もこれを繰り返しているところがあります。

鎌田 サッカーをしているときはどうでしたか? 高校はサッカーの強豪校に行って、レギュラーだったんでしょう。

又吉 はい。当時も今も、日常生活だと、自分の目とは別に、頭の上にカメラがあって、自分自身とカメラが一致することがなかなかないので分裂しているような感覚になることが多いんです。でも、カメラが下りてきて、自分自身と一致するときはあって、それがサッカーとお笑いなんですね。俯瞰で物事を見たり考えたりするのではなく、自分の考えが一つにまとまる感覚が、サッカーとお笑いをしているときにはあるんです。

鎌田 なるほどね。じゃあ、サッカーとお笑いをやっているときは、幸せなんだ。

又吉 そうですね。何も考えなくてよくて、気持ちいいですね。

鎌田 一方で、俯瞰の視点はものを書く行為につながっていると思いますが、又吉さんにとって「書くこと」はどういうことですか? 

又吉 自分の気持ちを整理することであると同時に、書いているときにしか考えられないことがあるんです。考えたことを書くだけではなくて、書きながら気づくことがあるので、書くこと自体にすごく期待しているところがあります。自己表現の場としても、僕にとっては大事ですね。お笑いではどうしても発表できない感覚や発想が、エッセイになったり小説になったりしていると思います。

鎌田 又吉さんがやってきたサッカーやお笑い、そして文学も、「みんなと違う自分」にこだわってきた結果なのかな、と思うんですね。僕はこの本を通して17歳くらいの若者たちに、「人と違っていいんだよ」ということを伝えたかった。生きていく上では偏差値よりも、「変さ値」が大事だよと。そういう生き方を体現されている又吉さんと、今日はお話ができてうれしいですね。

又吉 僕はサッカーをやっていたこともあって、本を読む友達がほとんどいない環境だったんです。本を読んでるなんて変人、みたいな扱いで、それでも自分にとっては大切なので読むんですが、ちょっと隠れて読んでいたんです。でも一つ年上に、僕より本を読む女の子がいて、その子は朝礼でも読んでいるし、遊ぶときも本を読みながら大縄跳びをしている。「あいつ何やねん」ってみんなに言われてましたが、周囲を気にせず自分が好きなものを大切にできるその子を、僕はすごくかっこいいと思っていました。

鎌田 すごい子だ! 彼女ほどじゃなくても、どんな職業についても、スポーツ選手でもラーメン屋でも経営者でも「言葉」は大事。これも、この本で伝えたかったことの一つです。言葉が感情や想像力をつくりだして、行動を引き起こすから。だから勉強が嫌いでも、本は読んだほうがいいと僕は思っているんです。

構成=砂田明子/撮影=露木聡子

青春と読書
2025年5月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

集英社

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