自分に合った面白いを探せば、面白く生きる方法はいくらでもある【又吉直樹×鎌田實 対談】

対談・鼎談

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17歳のきみへ 人生で大事なことは、目には見えない

『17歳のきみへ 人生で大事なことは、目には見えない』

著者
鎌田 實 [著]
出版社
集英社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784087817652
発売日
2025/04/25
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

自分に合った面白いを探せば、面白く生きる方法はいくらでもある

[文] 砂田明子(編集者・ライター)

「三分の一の悪人」を手なずける

又吉 たくさん印象に残った言葉やエピソードがあるんですが、まず、育ててくれたお父様と進路でもめたときの衝撃的な一場面ですね。その後、そういう悪い自分を自覚した上で、できるだけ出さないように生きていたと書かれています。なかったことにしたり、自分はそういう人間だから仕方ないと開き直ったり、あるいはそれはかつての自分であって今の自分ではないと捉える人もいると思うんですが、認めた上で自制するというのは重要な態度だと思いました。

鎌田 「三分の一の悪人」という表現をしたんですけど、人を傷つけるかもしれない自分は、今も自分の中に居ると思っています。その悪人が暴れ出さないように、手なずけていくことが、生きる意味につながっているのかなというのが僕の考えなんですね。

又吉 親から受け継ぐものや遺伝子について書かれているところも響きました。いいものは親からバトンを受け取ればいいけれど、違うと感じるものは受け取らなくていいと。僕は父親のキャラクター自体は好きなんですが、お酒が好きで煙草もよく吸って暴力的な発言も多い人間だったので、若いときは、とにかく父親の逆をやろうと意識していたんです。それなのにどうしても似てくる部分はあって、お酒が好きになってしまったり、そもそもわかりやすく顔が一緒やったり。たまにハッとするんですよ。味噌汁を飲んだときの、空のお椀の底に映った顔が、親父そのままやなと。完全に親とのつながりを断つことはできないと考え始めていたところだったので、興味深く読みました。
 それから「1%」は誰かのために生きようと書かれているのが、意外でもあり、気がラクにもなりました。先生は、実際は半分くらい人のために働いてこられたんじゃないかと思うんですが、それでも1%と書かれた理由はなんでしょう? 

鎌田 1%だったら、いろんな人が「自分もできるかもしれない」と思ってくれるんじゃないかと考えたんです。そういう人が増えていけば、世の中もっと面白くなったり、住みやすくなったりするんじゃないかって。それに10%っていうと暑苦しいでしょう(笑)。

又吉 もし誰かに10%とか30%と決められたら、そんなん余裕あるヤツがやっとけやと、卑屈になってしまう人が生まれると思うんですよ。1%が実際の数字かどうかはべつとして、そういう伝え方がすごくいいなと思いました。気持ちいい環境をつくりそうだなと。

鎌田 ○じゃなくて△でいい、というのも、1%の考え方と似ているかもしれませんね。自分が○になれないからかもしれないけれど、△のほうが面白いじゃないかという考えが自分の中にはある。

又吉 わかります。僕は本が好きだし、小説を書いたりしているので、勉強できなかったといっても国語だけは得意だったんでしょうとよく言われるんですが、ほかよりましなだけで全然優秀ではなかったです。現代文の読解力のテストでも、だいたい△をもらっていました。主人公の気持ちを問う問題に、周りにはこう見えてるけれども、本当はこういうものが根底にはあるはずだ、とかを空いてるスペースにびっしり書いていたんです。先生に「考えすぎ」って書かれて△でした。

鎌田 その解答、読んでみたいですね。僕が△でもいいというのは、失敗してもいいんだよ、というメッセージでもあるんです。「人には失敗する自由だってある」と本に書きました。僕もたくさん失敗してきましたが、一度や二度失敗したって人生はどうってことはないし、回り道に意味があることだってあります。

又吉 そうですね。失敗しないために行動しないのが一番もったいないと思います。失敗する自由は挑戦する自由でもあって、失敗するようなヤツがいらんことするな、みたいな空気はよくないと思いますし、一度言った発言には責任をとらないかん、みたいな空気が強すぎるのも人を委縮させるなと。意見は変わっていいはずです。
 それからもうひとつ、いろんなものを超えていく力を感じる話がありました。高校でサッカーをしていた少年が卒業前にがんで亡くなられて、学校は卒業証書を渡すことができないと判断したけれど、卒業式のとき、同級生たちがみんなで彼の名前を呼ぶんですよね。一緒に卒業するために。人間の美しい瞬間がちゃんとあることを感じられる、感動的な場面でした。

鎌田 多感な時期にいる子供たちに仲間の大切さを知ってもらえたらと思って書いた場面ですね。うるうるしながら書いて、読みなおしても、またうるうるしてしまうんです。

構成=砂田明子/撮影=露木聡子

青春と読書
2025年5月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

集英社

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