『わたしは楳図かずお――マンガから芸術へ』楳図かずお著/聞き手・石田汗太

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わたしは楳図かずお

『わたしは楳図かずお』

著者
楳図かずお [著]/石田汗太 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784120058943
発売日
2025/03/07
価格
2,530円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『わたしは楳図かずお――マンガから芸術へ』楳図かずお著/聞き手・石田汗太

[レビュアー] 苅部直(政治学者・東京大教授)

 この絵は、漫画家、楳図かずおが高校三年生のときに刊行したデビュー作『森の兄妹』の裏表紙に描いたもの。暗い森の動植物がヘンゼルとグレーテルを取り囲んでいるが、全体の雰囲気はほの明るい。

 晩年に行われた自伝インタビューをまとめた一冊である。「子どもは怖いものが大好き」と気づいたことから、楳図は「恐怖マンガ」を描くようになったという。子供は理屈ぬきで物事をとらえるから、何かを怖いと思いながら、それに惹(ひ)きつけられてゆく。世界に対するそうした構えを、大人になっても失わなかったから、多くの名作を生むことができたのだろう。

 それは、大人が期待する純真な児童の心ではない。『漂流教室』に描かれたように、残酷な殺し合いもする。しかしその彼らをおびやかす暗い森が、同時に人間たちの世界を外側から包みこみ、ひそかに支えているのである。(中央公論新社、2530円)

読売新聞
2025年4月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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