『サッカー・グラニーズ』
- 著者
- ジーン・ダフィー [著]/実川 元子 [訳]
- 出版社
- 平凡社
- ジャンル
- 芸術・生活/体育・スポーツ
- ISBN
- 9784582627060
- 発売日
- 2024/09/20
- 価格
- 3,520円(税込)
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
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[本の森 ノンフィクション]『サッカー・グラニーズ』ジーン・ダフィー/『評伝 森崎和江――女とは何かを問い続けて』堀和恵
[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)
いまやサッカーは男性だけのものではない。サッカー日本女子代表の世界での活躍は目覚ましく、誇りに思う。
だが世界には年配女性だけの大会があることを知っているだろうか。『サッカー・グラニーズ』(平凡社)はサッカーで人生を切り開いたおばあちゃんたちの物語だ。
著者はアメリカ在住のノンフィクション・ライターであるジーン・ダフィー。サッカー・ママに飽き足らず「レクスプレッサス」というチームに所属していた。2010年、FIFAワールドカップが南アフリカで開かれた年だ。
この年51歳のジーンは、ある日南アフリカで高齢女性たちがサッカーを楽しんでいる動画を観て驚く。ある女性は、自分は83歳だが心臓発作を起こしてもサッカーを続けることで人生がいいものになったと取材に応えている。太り気味の人も骨と皮ばかりにやせた人も楽しそうにボールを追いかける姿に著者は見入った。
そのサッカーチームとは南アフリカの片田舎にある、40代後半から80代前半までの女性35人が所属する「バケイグラ・バケイグラFC」、地元の言葉で「おばあちゃん、おばあちゃん」だという。
彼女たちを今年、マサチューセッツ州で開催されるベテランズ・カップに招待しよう。そこからレクスプレッサスのメンバーの苦闘が始まる。
本書ではグラニーズをアメリカに迎えるまでの大騒動が描かれているのだが、読みどころはそれだけではない。長くアパルトヘイトを経験した南アフリカの女性たちが受けた人種差別、性差別、年齢差別の記述は生々しく、彼女たちそれぞれの歴史には息を呑む。
日本にはサッカー・グラニーズはいないのか。2011年の優勝メンバーもそろそろ壮年。最強なチームになるだろう。
世界経済フォーラムが2024年6月に公表した「ジェンダーギャップ指数2024」によると、日本は146か国中118位。先進国のなかでいまだ最低レベルだ。それでも私が就職した昭和時代から考えると、ずいぶんましになったなあ、と思う。
だがその背景には先人たちが続けてきた社会との死闘があった。
『評伝 森崎和江――女とは何かを問い続けて』(藤原書店)は1927(昭和2)年、朝鮮半島で生まれた女性作家の生涯をたどる。父は朝鮮人と日本人が共学する学校の校長だった。朝鮮の自然が身に沁み込むのと同時に「差別」を体験する。森崎が思想家となった原点だ。
私が森崎和江を初めて読んだのは筑豊炭鉱で働く女性たちを取材した『まっくら 女坑夫からの聞き書き』(岩波文庫)である。女性ノンフィクション作家の存在を知ったのも森崎と山崎朋子によってだ。からゆきさんに対するふたりの考え方の違いも本書で初めて知る。
著者の堀和恵はフェミニズムの源流を求め、管野須賀子、九津見房子、伊藤野枝の評伝を著わしている。森崎和江の一生を俯瞰できる貴重な一冊だと感服した。