『午前零時の評議室』
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日ミス文学大賞新人賞受賞作! 現役弁護士による私設法廷ミステリ
[レビュアー] 千街晶之(文芸評論家・ミステリ評論家)
弁護士出身のミステリ作家は今や珍しくないが、第二十八回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した衣刀信吾は、日本弁護士連合会の副会長(受賞当時)だというから驚きだ。しかも、その激務の間に書き上げた受賞作『午前零時の評議室』が、リーガル・ミステリとしてのみならず本格ミステリとしても水準が高いのだからなお驚かされる。
大学三年生の神山(こうやま)実帆は、補充裁判員に選任されたという手紙を受け取った。担当判事の元邑(もとむら)太朗の意向で、事前オリエンテーションを開催することになったというので、彼女は指定されたビルを訪れる。そこに集まった裁判員たちを出迎えたのは元邑判事。だが、評議室に招き入れられた実帆たちは、そのまま監禁されてしまう。ある事件について評議して正しい結論を出すこと、それが元邑からの要求だった。
関係者を拉致して強引に私設法廷を開くミステリとしては、ヘンリイ・セシルの『法廷外裁判』や西村京太郎の『七人の証人』が思い浮かぶが、本書はそうした前例と比べても見劣りしない出来映えだ。有罪か無罪か、制限時間内に正しい評決を出さなければ裁判員たちに死が待っているというのもスリリングだし、しかもあるアクシデントによって、元邑判事の真意を確認することが不可能になる展開もサスペンスを盛り上げる。そして本格ミステリとしては、アガサ・クリスティーばりに細かい伏線を張りめぐらせており、読後、あれもこれも伏線だったのかと感嘆させられる。作品全体に仕掛けられた巨大な罠(わな)も見事に決まった本書は、日本ミステリー文学大賞新人賞の歴史でも上位に来る傑作である。