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中江有里「私が選んだBEST5」GWお薦めガイド
[レビュアー] 中江有里(女優・作家)
朝比奈秋『受け手のいない祈り』は大阪郊外の総合病院が舞台。語り手の公河は70時間を超える連続勤務で肉体も精神も疲弊していた。「誰の命も見捨てない」という院是を掲げているが、そこに医師たちの命は含まれていない。近隣の病院は救急医療から撤退し、医大時代の同期は過労死した。
「ああいう風には死にたくない」「もっと楽な死にかたがいい」とこぼす公河。
救急の現場の壮絶さに、息が詰まりそうになる。冷たい高級弁当を食べても、腹は満たされず、常に食べ物を探している。食べたいのではなく、己の空白を埋めたい、そんな風に感じる。
患者の命を守るために、自らの命を削る医師。生体と遺体、家族知人友人たちと他人の違いがうまくわからなくなっている、混沌とした精神状態の公河を救う方法は、ここから出ていくこと一択だろう。そうすると残った医師たちはさらに疲弊し、行き場を失った患者は命を落とす。
適切な答えは見つからない。ギリギリの医療現場に彷徨う祈りの書。
早見和真『問題。 以下の文章を読んで、家族の幸せの形を答えなさい』。小学6年生の十(と)和(わ)は母が半ば強引に決めた中学受験に挑むことになった。同じ塾に通う友達たちもそれぞれ志望校を決めているが、十和は目標が定まらず、勉強にもなかなか身が入らない。中学受験生にとって「天下分け目」とも言われる夏休みが始まろうとしていた。
勉強から逃げ腰だった十和が徐々に変わっていくのは、劇的な何かがあったわけではない。小6は子どもではあるけれど、大人の事情や世間のこともわかり始める頃。反発しても変わらないものを、自分なりに解釈することは成長だ。受験は志望校に入ることだけでなく、自分の道を選択できる権利獲得の挑戦でもある。
信田さよ子『なぜ人は自分を責めてしまうのか』。母と娘、共依存、育児にまつわる問題を考察し、「自責」というテーマに迫る一冊。
「自責感」=「すべて自分が悪い」というのは、例えば親からいきなり蹴られ、その理由がわからない子どもが「自分が悪かった」と自分を納得させる感情がそう。大なり小なり「自責感」の覚えがある人にすすめたい。自責の念に駆られないためには、嫌だと思った感覚を大切にすることだと著者は言う。
プチ鹿島『半信半疑のリテラシー』。新聞十四紙を読み比べる著者の問題提起にはハッとさせられることが多い。地元紙から読み解く地元テレビ局と知事の攻防や、各紙揃って「真摯に受け止めなければいけない」と書いたあの芸能事務所の問題。プチさんの真摯な仕事に頭が下がります。
梯久美子『やなせたかしの生涯 アンパンマンとぼく』。自分の顔を食べさせるアンパンマンにはやなせからの多くのメッセージが込められている。時折挟み込まれる詩がとてもいい。