<書評>『NEXUS(ネクサス) 情報の人類史(上)(下)』ユヴァル・ノア・ハラリ 著

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NEXUS 情報の人類史 上

『NEXUS 情報の人類史 上』

著者
ユヴァル・ノア・ハラリ [著]/柴田 裕之 [訳]
出版社
河出書房新社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784309229430
発売日
2025/03/05
価格
2,200円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

NEXUS 情報の人類史 下

『NEXUS 情報の人類史 下』

著者
ユヴァル・ノア・ハラリ [著]/柴田 裕之 [訳]
出版社
河出書房新社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784309229447
発売日
2025/03/05
価格
2,200円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『NEXUS(ネクサス) 情報の人類史(上)(下)』ユヴァル・ノア・ハラリ 著

[レビュアー] 風元正(文芸評論家)

◆AIが管理者となる社会へ

 ハラリはついに、テクノロジーの進歩への楽観的な姿勢を覆した。人間と情報ネットワークの関係が、人間と文書の連鎖(=ネクサス)だけではなく、コンピューターとコンピューターの連鎖という未知の段階に入ったからだ。

 人間を連鎖する最初の情報テクノロジーは、指導者やイデオロギーについての「物語」である。信奉者に信じられた物語は神話として文書化され、流布し、やがて秩序を守るために神話の勝手な読み方を制限する官僚制が生まれた。

 ユダヤ教ではラビたち、キリスト教では教会会議が、膨大な物語や伝承を編纂(へんさん)した旧約・新約聖書が正典となる。神の言葉を集成した正典は権威の源泉として聖典になり、解釈を管理する編纂者(=官僚)は権力を握る。しかし、官僚組織は誤りを犯す。15世紀、ひとりの宗教裁判官が書いた「魔女」弾圧の煽動(せんどう)本が印刷術を使ってベストセラーとなり、聖職者たちまで巻き込み多くの犠牲者を出した。

 ソ連では、ボリシェビキ党は真理の党、という原理の下、スターリンが全体主義体制を完成させた。独裁者の権力は秘密警察などの密通者に支えられ、全国民がコルホーズ(集団農園)へ加入するという制度により高度な監視体制が完成した。党官僚が進める農業の集産化が抵抗に遭うと、世界的な反革命の陰謀を捏造(ねつぞう)し、私有財産を持つ者は資本主義の手先(=クラーク)だとして「魔女狩り」された。

 情報ネットワークは真実の追求のために自己修正メカニズムが必要である。しかし、官僚組織は現実の矛盾に直面すると真実を無視し、組織内の「魔女」を見つけ粛清し解決する。そして、機械学習により自主性を持った眠らないコンピューターのアルゴリズムがスターリン化するならば?

 ハラリは、思考の過程が目に見えないAIという「エイリアン」が社会の管理者として仲間入りすることで起こる革命を正確に予見した。しかし、AIとの賢い交際法を考察する時は十分に残されている。人生の真実を無視したネットワークは決して存続できない。

(柴田裕之(やすし)訳、河出書房新社・各2200円)

1976年生まれ。イスラエルの歴史学者、哲学者。ベストセラー多数。

◆もう1冊

『サピエンス全史』(上)(下)ユヴァル・ノア・ハラリ著、柴田裕之訳(河出文庫)

中日新聞 東京新聞
2025年4月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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