『競争なきアメリカ 自由市場を再起動する経済学』トマ・フィリポン著

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競争なきアメリカ

『競争なきアメリカ』

著者
トマ・フィリポン [著]/川添節子 [訳]
出版社
みすず書房
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784622097549
発売日
2025/03/19
価格
4,950円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『競争なきアメリカ 自由市場を再起動する経済学』トマ・フィリポン著

[レビュアー] 櫻川昌哉(経済学者・慶応大名誉教授)

活性化生まない産業集中

 トランプ政権は、国内製造業の復活と雇用の増加、中産階級の再生を目指して大(おお)鉈(なた)を振るおうとしている。いったい米国の産業界で何が起きているのだろうか。本書は、自由競争の国で現実に起きていることは多くの人が米国経済に抱くイメージとはかけ離れていると指摘する。

 過去20年間、米国の産業界では集中が進んでいる。トップ企業が市場シェア1位を持続する期間は長くなり、売上高利益率は上昇している。集中はリーダー企業が効率性を高めて、競争に勝ち抜いた結果なのであろうか、それとも国内競争が減り、リーダー企業の地位が固定化した結果なのであろうか。

 本書は、データを駆使してどちらの見解が正しいのか絞り込んでいく。集中の進んでいる業界ほど投資は少なく、生産性の伸びも低いという事実が浮き彫りにされる。そして企業間の合併が著しく増えている。もう答えはほぼ明らかであろう。集中は国内競争の減少の結果である。リーダー企業の価格支配力が強まり、財やサービスの価格は上昇して、消費者を苦しめている。そして競争減少を生み出したのは、活発なロビー活動と選挙献金に後押しされた参入障壁の上昇と反トラスト法の弱体化であると指摘する。

 GAFAMと呼ばれるインターネット企業についての考察も興味深い。今をときめくこれらスター企業が、かつてのスター企業であるGM、ウォルマート、IBMと異なるのは、株式時価総額にくらべて雇用が著しく少なく、他産業から中間財や原材料をあまり購入しないことである。グーグルのトップによれば「アイデアをつくるのに100人もいらない」。インターネット分野の技術進歩は、雇用を拡大させることはなく、経済全体の生産性にも影響を与えない。

 かつては、大企業に莫(ばく)大(だい)な利益が生じると雇用と投資が生まれ、パイの拡大は回り回って経済を活性化させた。どうも企業と経済をつなぐ好循環のループは切れかかっているようである。資本主義がどのように壊れてきているのか見事にえぐってみせた1冊である。川添節子訳。(みすず書房、4950円)

読売新聞
2025年5月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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