『中国の産業政策』
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『中国の産業政策』丸川知雄著
[レビュアー] 岡本隆司(歴史学者・早稲田大教授)
「中国の産業政策のせいで造船業やEV産業などで過剰な参入が起きている。けしからん」「過剰な参入が起きているのはご指摘の通りです。ですから産業政策が必要なのです」
著者が紹介した西側と中国側の「珍問答」である。なぜこうなるのか。
歴史にはみえない「半導体」や「EV」など現代産業も勉強を、と思って手に取った一冊。「産業政策」の誤解を正し、移動通信・半導体・自動車・鉄鋼業・太陽電池・液晶パネルなど各種産業で「政策」の内容と成否を検証する論述は、周到にしてソツがない。
「政策の失敗」にもかかわらず「各産業は総じて見れば発展に成功した」というのが、納得の結論である。液晶パネルだけ「失敗」がなかったのは、中央政府が何もしなかったからであり、太陽電池では民営企業が「暴走」して「中央政府はその尻拭いに追われた」。
中央政府が民間企業を把握しきれないとすれば、歴史にみえる中国の官民関係と重なり合う。自他ともそうした機微に、どうやら疎い。「珍問答」はじめ、国際的な軋(あつ)轢(れき)対立の生じるゆえんであろう。(名古屋大学出版会、5940円)