『そして奇妙な読書だけが残った』
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『そして奇妙な読書だけが残った』大槻ケンヂ著
[レビュアー] 苅部直(政治学者・東京大教授)
江戸川乱歩による少年むけミステリ『電人M』。少年探偵団シリーズの後期作品で、SFじたて(?)の怪作である。冒頭、少年が望遠鏡をのぞいて東京タワーを見ていると、巨大な蛸(たこ)が赤い鉄骨にとりついている! その正体は怪人二十面相の手下で、少年探偵をおびき出すための罠(わな)だったとわかるのだが、子供を一人さらうために、何でわざわざ蛸(火星人という設定)の着ぐるみに入って鉄塔に登らないといけないのか。
この作品は本書にも名前だけ登場する。ミステリ、SF、オカルト、プロレス、ロックなどなど、小学生時代から還暦近くになった現在に至る、こんな感じの「奇妙な読書」の遍歴が、小説とノンフィクションの双方にわたって語られる。
評者もほぼ同年代で、やはりオカルトブーム、戦前の探偵小説の復刊、日本SFの黄金時代、文庫本の活性化が惑星直列のように重なった時期に、読書に目ざめた世代に属する。しかし大槻ケンヂの守備範囲の広さ、そして今や老眼が進んだとぼやきながら、面白いものを発見するアンテナの感度には、脱帽するしかないのである。(本の雑誌社、1870円)