『そして奇妙な読書だけが残った』大槻ケンヂ著

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そして奇妙な読書だけが残った

『そして奇妙な読書だけが残った』

著者
大槻ケンヂ [著]
出版社
本の雑誌社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784860114992
発売日
2025/02/14
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『そして奇妙な読書だけが残った』大槻ケンヂ著

[レビュアー] 苅部直(政治学者・東京大教授)

 江戸川乱歩による少年むけミステリ『電人M』。少年探偵団シリーズの後期作品で、SFじたて(?)の怪作である。冒頭、少年が望遠鏡をのぞいて東京タワーを見ていると、巨大な蛸(たこ)が赤い鉄骨にとりついている! その正体は怪人二十面相の手下で、少年探偵をおびき出すための罠(わな)だったとわかるのだが、子供を一人さらうために、何でわざわざ蛸(火星人という設定)の着ぐるみに入って鉄塔に登らないといけないのか。

 この作品は本書にも名前だけ登場する。ミステリ、SF、オカルト、プロレス、ロックなどなど、小学生時代から還暦近くになった現在に至る、こんな感じの「奇妙な読書」の遍歴が、小説とノンフィクションの双方にわたって語られる。

 評者もほぼ同年代で、やはりオカルトブーム、戦前の探偵小説の復刊、日本SFの黄金時代、文庫本の活性化が惑星直列のように重なった時期に、読書に目ざめた世代に属する。しかし大槻ケンヂの守備範囲の広さ、そして今や老眼が進んだとぼやきながら、面白いものを発見するアンテナの感度には、脱帽するしかないのである。(本の雑誌社、1870円)

読売新聞
2025年5月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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