『虚構の日米安保』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
<書評>『虚構の日米安保 憲法九条を棚にあげた共犯関係』古関彰一 著
[レビュアー] 布施祐仁(ジャーナリスト)
◆立憲主義破壊する密室協議
3月末に来日した米国のヘグセス国防長官が、台湾有事など西太平洋で戦争が起きた場合、「日本はフロントライン(前線)」になると発言した。実際に、日米両政府は台湾有事で日本を「前線」にして共に戦う態勢の構築を進めている。
「そんな重大なこと、いつどこで決めたのか」と多くの国民が疑問に思うだろう。驚くべきことに、日本が戦場になる話なのに、国民に対する説明も、国会での議論も皆無と言っていい。日米政府間の密室協議だけで決めているのが実態だ。
なぜ、こんな非民主的なやり方がまかり通っているのか。本書は、その「根源(ルーツ)」を解明している。
日米安保の歴史は、有事の際に日本の部隊が米軍の指揮下に入るという重大事項を「協議」というブラックボックスに隠すことから始まった。そこで生まれたのが、著者が米国立公文書館で発掘した「指揮権密約」だ。以後、この手法が憲法を棚上げする常套(じょうとう)手段となった。
「協議すれば憲法が変わるとは知らなかった」というダレス国務長官の言葉(1955年8月の重光外相との会談で)がそれを象徴している。
ダレスは日米安保の強化には憲法9条の改正が避けて通れないと考えていたが、日本政府は違った。憲法に抵触する難しい問題も、日米政府間の密室協議でうまく解決できると考えていたのだ。
こうした考えに基づいて行われたのが、岸信介首相が主導した1960年の新安保条約の締結であった。岸は米国が望む改憲を先送りする一方、政府間の密室協議で日米安保を強化していく道を付けたのだ。著者はこれを、立憲主義を破壊する「静かな政変(クーデター)」であったと喝破する。
しかし、こんな前近代的なやり方がいつまでも通用するはずがない。トランプ政権の発足で、強固で揺るがないように見えた日米安保も地殻変動期に入った。これをチャンスとして、日本の安全保障に立憲主義と民主主義を取り戻す時だ。日本を勝手に「前線」にさせないためにも。
(筑摩選書・2090円)
1943年生まれ。独協大名誉教授。著書『安全保障とは何か』など多数。
◆もう1冊
『従属の代償 日米軍事一体化の真実』布施祐仁著(講談社現代新書)。戦慄(せんりつ)の現地リポート。