『美人までの階段1000段あってもう潰れそうだけどこのシートマスクを信じてる』
- 著者
- エリース・ヒュー [著]/金井 真弓 [訳]/桑畑 優香 [監修]
- 出版社
- 新潮社
- ジャンル
- 文学/外国文学、その他
- ISBN
- 9784105074418
- 発売日
- 2025/02/17
- 価格
- 2,420円(税込)
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<書評>『美人までの階段1000段あってもう潰れそうだけどこのシートマスクを信じてる』エリース・ヒュー 著
[レビュアー] ひらりさ(文筆家)
◆外見至上主義の抑圧
日本社会に「美容医療」という言葉が浸透してどれくらい経(た)つだろう。シワをなくすためのボトックス注射、シミを防止するためのレーザー照射は、都内在住、30代半ばの評者の周りでは日常的なものになっている。体形を保つためピラティスやジムに通う友人も多い。評者も「5キロ痩せる!」と公言し、パーソナルトレーニングを契約したところだ。4カ月プラン一括払い24万円。一瞬ためらったが、結局払った。つまり24万円以上の「リターン」があると感じたのだ。ビジネスパーソンが英語塾に投資するのと同じだ。
メディアやSNSにより「美」の権力が強化され続けていること、中心に、韓国の美容産業があること。その実態をアメリカから赴任した女性ジャーナリストの視点で観察したのが、本書だ。10代の頃モデルをしていた彼女は、痩身(そうしん)を要求されたのを機に摂食障害になった過去から、「美」を敬遠していた。しかし、陶器のような肌や痩せた体が「社会のマナー」として重んじられる韓国社会で暮らすうち、ふたたび、美容の権力に巻き込まれる。
3人の女児の母でもある著者の観察眼はこまやかだ。大きいサイズのない衣料品、就活のために推奨される顔面整形、「美容を通じた母親との絆」のイメージを強調する女児向けコスメ。美のイメージが、いかに商品・サービスを売るために作り出されたものであるか、痛感させられる。Kビューティーの規範が韓国で生まれ世界に広がるに至った文化的背景や、アメリカ社会との比較分析も面白い。
「美」が巧妙に女性と少女を抑圧するさまを暴き出す本書。著者は、外見を至上価値とするのではなく、優しさや内的な実力が評価される社会の到来を願う。心から頷(うなず)きつつも、自分自身が美容を手放すことの難しさも感じる。美容はマナーであり、リターンをもたらすものであり、努力で変化を実感できる領域として個人をエンパワーメントする側面まであるからだ。世界への希望と絶望を、半々ずつ感じる一冊だ。
(金井真弓訳、桑畑優香韓国語監修、新潮社・2420円)
米ロサンゼルス在住のジャーナリスト、作家。
◆もう1冊
『美容は自尊心の筋トレ』長田杏奈著(ele-king books)