『日ノ出家のやおよろず』
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【聞きたい。】安藤祐介さん 『日ノ出家のやおよろず』 じんわり染みる小説書きたい
[文] 三保谷浩輝
安藤祐介さん
会社員の日ノ出楽志(たのし)は仕事も家事も不器用だが、自宅の家電製品などに名前を付けて大切に使っている。柱時計の時蔵、テレビのテレ男、冷蔵庫の冷子、炊飯器のタケル…モノには魂が宿ると信じて。
名前を得てココロが宿ったモノ同士が言葉を交わすようになり、「チーム・やおよろず」を結成。リストラから天職に巡り合う楽志と、妻で料理教室講師の灯里(あかり)、作中で誕生から中学生まで成長する一人娘の咲月(さつき)の3人を見守り応援する。帯に「おかゆのように心にしみる物語」とある。
「数年前、僕がストレスでしんどい時期に優しい作品を読みたいと書店に行っても、題名や内容が刺激的なものばかり。やっと見つけた青山美智子さんの『木曜日にはココアを』、原田マハさんの『ギフト』を読んで心が落ち着いた。自分もこんな小説を書きたい、必要としている人はいるはずだと思いました」
もともとモノの視点でダメな主人公を見守る小説を構想していた。そこに、大切に思えば応えてくれる▽出会いがあれば別れがある▽必要とされる場所にいる幸せ―など人とモノに通じる思いを込めた。
「優しさと穏やかさに徹して書きました。じんわり染みて、何かよかったなという読後感や、明日も頑張ろうと思ってもらえたらいい」
自身もモノを大切にすることでは楽志に負けず、「名前こそ付けませんが、愛着が湧くと捨てられません」。20代で買った1万円のコートを今も愛用し、冷蔵庫、炊飯器は十数年使用。ノートパソコンでさえ14年前の購入品。「何とか動いている感じですが、これで小説を10作ぐらい書いてきて、苦楽を共にしているので」。物語にも登場する猫とは17年6カ月を共にした。
文を書くのが好きで、25歳から小説を書き始めた。大学卒業後に5度転職し、今の仕事に就いて20年。勤め人と二足のわらじを続けている。
「土日の一日は書いていないと落ち着かない。執筆は生きがい、おちゃらけて言うと現実逃避ですかね。ドラマや映画を見るより小説を書く方が異世界に深く入り込める。ずっと続けていきたいですね」(中央公論新社・2090円)
三保谷浩輝
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【プロフィル】安藤祐介
あんどう・ゆうすけ 勤め人、小説家。昭和52年、福岡県生まれ。早稲田大卒。平成19年、『被取締役新入社員』でTBS・講談社ドラマ原作大賞を受賞しデビュー。『崖っぷち芸人、会社を救う』など著書多数。