『自民党が消滅する日』
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日本人が無意識に持つ「保守主義の精神」その死守を痛切に訴える政治評論集
[レビュアー] 施光恒(九州大学大学院教授)
間違いなく自民党は今夏の参院選で大敗する。自民党に投票する積極的理由が全くないからだ。自民党に投票する人がいたとしても「他党よりはマシ」という消極的理由からだろう。
本書は、このような状況になぜ至ってしまったかを明らかにする政治評論集である。著者の岩田温氏は様々な媒体で活躍する保守派の若手論客だ。
岩田氏は「保守主義の精神」を次のように説明する。「我が国に生まれたという宿命を受け入れ、歴史を愛し、将来世代に繁栄した祖国を遺すところにその要諦がある」。「国家は先祖から伝えられたものであり、子孫に伝えるべき」ものだと見なす。
「保守主義の精神」は普通の人々の生活感から離れた崇高な理念だと思われるかもしれない。しかし実は半ば無意識に日本人の多くが共有しているものだ。
私は自治体などから依頼され、選挙啓発の講演を各地でよく行う。政治的関心を持ち投票に行こうと有権者に促す類の講演だ。その際、政治学の教科書のように「民主社会の有権者の義務だから投票に行くべきだ」などと言っても聴衆には届かない。
一番多くの人に納得してもらえるのは、当地の水利事業などの歴史を取り上げながら次のように言う話し方だ。「いま私たちが、この国やこの地域に暮らせているのは先人の努力のおかげだ。だが彼らはもう亡くなっているので、その恩を直接返すことはできない。現在を生きる私たちは子孫のために、この国や地域社会をさらに良いものにして遺さなければならない。そのためには政治に関心を持ち、投票に行く必要がある」。
これは「保守主義の精神」そのものである。多くの日本人は、あまり意識せずにこれを保持している。だからこそ「保守政党」を自任してきた自民党は戦後の大半にわたり政権を担当できた。だが、近年の自民党は、地域の過疎化やシャッター街化を放置したり、今国会でも財界の命を受け選択的夫婦別姓の導入に邁進したりするなど保守らしさが皆無だ。先人が遺したものへの敬意、それを次世代に伝えていく意欲に欠けている。地域社会や家庭こそ世代間の継承が行われる場である。それが損なわれる恐れがあっても今の自民党はまるで意に介さないのだ。
自民党が消滅しても別に構わない。ただ、多くの普通の日本人が半ば無意識に大切にしてきた保守主義の精神に基づく願いを、日本の政治に反映する経路だけは死守しなければならない。岩田氏の痛切なる声を真摯に受け止めるべきである。