『ありか』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
幼い娘はただ守られるだけじゃない!母であり、娘でもあるシングルマザーの物語
[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)
二〇一九年に『そして、バトンは渡された』で本屋大賞を受賞した瀬尾まいこの新作家族小説である。
半年前に離婚した二十六歳の美空は化粧品を扱う工場で働きながら、五歳の娘、ひかりを育てている。なにかと二人の世話を焼きたがるのは、元夫の弟の颯斗で、子供好きな彼にはひかりも懐いている。そんな颯斗や美空の職場の同僚、保育園のママ友らとの関係を絡めて、母娘の日々が綴られる。人に甘えることも頼ることも苦手だった美空だが、不安や困難に直面するなかで、人と支え合うことを知っていく。
そこに不穏な影を落とすのが、美空の母親、つまりひかりの祖母の存在だ。一人で娘を育ててくれた母親だが、美空は彼女から愛情を感じることはなかった。現在五十代の母親は、自分の都合で強引に美空たちの家にやってきては愚痴をこぼし、娘や孫のことを軽んじ、さらには金の無心までする。育ててもらった恩もあり無下にはできない美空は、どう折り合いをつければいいか分からずにいたのだが……。
美空のことが大好きで無邪気なひかりがとても愛らしく、母娘の屈託のない会話は読んでいてこちらも楽しくなる。母親として、社会人として不安や悩みが多々ある美空にとって、娘の存在がどれほど大きな支えになっているのかがよく伝わってくる。ここまで素直で明るい子供は珍しいのではと思ってしまう読者もいるかもしれないが、美空母娘のやりとりは、著者と娘さんの実際の会話そのままなのだという。
幼い子供はただ守られ、育てられていくだけではない。その存在によって、大人たちも世界を広げていくことができるのだ。これは一人の女性が幼い娘とともに成長し、自分のいるべき場所、つまり“ありか”を見出していく物語である。後半、人に助けられてきた美空がある人物を助けようと行動を起こす場面は胸が熱くなる。