「女の子たちの救いになるのは、優しい彼氏じゃなくて…」 友情の発生、変遷、終焉が描かれる作品3選

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生まれては消えた友情を弔い、新しい繋がりの誕生を寿ぐ。女子の友情を描く連作短編集

[レビュアー] 北村浩子(フリーアナウンサー・ライター)

「友達はいつか離れていく。だから最後がendなんだ」

 中学生の頃、英単語friendのスペルをそんなふうに覚えていたことを思い出した。山内マリコ『一心同体だった』は、1980年に生まれた女性たちの交流をリレー形式で綴った連作短編集。と紹介するとシスターフッドや連帯という言葉が浮かんでくるかもしれないが、この作品は友情の発生だけでなくその終焉をも描いている。

 10歳の千紗は仲良しの裕子ちゃんより、別の人気者の女子とつるみたくなっている。14歳の裕子は〈男好き〉の噂がある青柳めぐみと距離を縮める。18歳のめぐみは高校時代の親友・北島遥との青春を思い返している。大学生の遥は映画研究会で出会った高田歩美とあることを企てる……後景にいた人物を次の章では前景に置き、人称や語り口を変えつつ物語の時間が進んでゆく。浮かび上がってくるのは性的価値がすなわち存在価値だと女性に思わせている社会構造の歪さだ。〈女の子たちの救いになるのは、優しい彼氏じゃなくて、自分との和解〉〈自分の中に埋まった「男の目線」をやっつけること〉。終章に連ねられた力強い言葉が、生まれては消えたいくつもの友情を弔い、新しい繋がりの誕生を寿ぐ。

 内気な小学生・律と、学校へ来てもトイレの掃除用具入れに閉じこもってしまう同級生・瀬里奈の奇妙な友情を綴った村田沙耶香『マウス』(講談社文庫)は、人はどこまで人に影響を与えられるのかという問いを包含した長編。律は思いがけず瀬里奈を堂々とした女子に変身させるのだが、律自身は変わることができない。生まれ持った性分と折り合いをつける難しさが関係の変遷の中に埋め込まれている。

 有沢佳映『アナザー修学旅行』(講談社青い鳥文庫)は、様々な理由で修学旅行に参加しなかった中3男女7人の物語。彼らはすかすかの教室で3日間一緒に過ごすことになる。3日間は友情を育むのに十分か? お互いを友達だと認定する瞬間は訪れるのか。微妙な距離感を映し出した会話が滅法面白い。

新潮社 週刊新潮
2025年5月15日夏端月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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