『そういえば最近』寺地はるな著

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そういえば最近

『そういえば最近』

著者
寺地 はるな [著]
出版社
U-NEXT
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784911106334
発売日
2025/03/19
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『そういえば最近』寺地はるな著

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

 短編連作を単行本にまとめる際、長編的な構成が強くなるように加筆修正するのは珍しいことではないが、本書はそれに加えてちょっと面白い試みをしている。冒頭のエピソードのあとに本のタイトルを冠した扉がついているので、映画みたいなアヴァンタイトルの趣があるのだ。その扉絵に描かれている不思議で可(か)愛(わい)らしいキャラクターが物語の鍵を握っている。

 明確なジャンルのない「なんか中途半端」な小説を書いている女性作家である主人公(今は「夫婦」を題材に新作を書こうとして悩んでいる)、七年も原稿を書いていない同期の男性作家とその妻、同期の出世頭である女性人気作家、担当編集者やマネージャーも登場するが、本書はいわゆる業界ものではない。小説家に限らず、人は誰でも自分の物語を紡ぎながら生きている。そこには様々な思惑や願望が入り込むけれど、一つだけ確かなのは、「フィクションだとしても、心にもないことは書けない」ということ。小説を生(なり)業(わい)として選んだ主人公が、その小さくて尊い事実を再認識するまでのお話なのです。(U―NEXT、1760円)

読売新聞
2025年5月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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