『踊るのは新しい体』
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『踊るのは新しい体』太田充胤著
[レビュアー] 大森静佳(歌人)
スマートフォンの画面で踊る人間の身体は「人形」に近似し、私たちは日々その「人形」を見つめ続ける。本書はゼロ年代以降のデジタル空間の拡張を射程におさめながら、私たちの身体感覚の変容をスリリングかつ精(せい)緻(ち)に語っていく。医師であり元ダンサーという経歴を持つ気鋭の批評家による新時代の身体論である。
まず著者は哲学者の金森修の人形論やSF文学を参照しつつ、ヒト型のモノが魂を持つように見えるのはなぜかを整理する。人間と人形が最も接近するダンスという場を切り口に、心や身体感覚ではなく視覚的な身体表象にこだわった点が大きな特色。VRアバターやAIロボットは人間のモーションデータを流し込まれることで魂を実装し、他方でTikTokなどでは流行のダンスが無限に複製されていく。そこでは生身とバーチャル、オリジナルと複製の区別はもはや確かなものではない。
単純な肉体賛美やテクノロジー賛美には着地せず、新たな問いが次々に投げかけられる。唯一無二の実存感覚が薄れかけている時代に、生をめぐる思考を刺激してくれる一冊。(フィルムアート社、2640円)