『NEXUS 情報の人類史 上』
- 著者
- ユヴァル・ノア・ハラリ [著]/柴田 裕之 [訳]
- 出版社
- 河出書房新社
- ジャンル
- 歴史・地理/外国歴史
- ISBN
- 9784309229430
- 発売日
- 2025/03/05
- 価格
- 2,200円(税込)
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『NEXUS 情報の人類史 下』
- 著者
- ユヴァル・ノア・ハラリ [著]/柴田 裕之 [訳]
- 出版社
- 河出書房新社
- ジャンル
- 歴史・地理/外国歴史
- ISBN
- 9784309229447
- 発売日
- 2025/03/05
- 価格
- 2,200円(税込)
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『NEXUS 情報の人類史』ユヴァル・ノア・ハラリ著
[レビュアー] 奥野克巳(人類学者・立教大教授)
AI支配 危険防ぐ責任
現在AIは、多くの子供が行方不明になる中国やインドなどで活用されているという。二〇〇九年に中国四川省で誘拐された三歳児が、二〇一九年に顔認識アルゴリズムによって発見され、家族の元に戻された。AIは、幼少期の写真から十三歳になった際の姿を推測し、実際の十三歳の子供たちの画像と照合したのである。
これは、日常的に生成される膨大なデータを分析し、AIが有益な目的で使用された例である。しかし、著者はAIが人間を監視する社会では、プライバシーが完全に失われ、民主主義が崩壊する危険があると警告している。
技術の進展は人に力を与えてきた。その使用に関する決定は人間に任されていた。ナイフや爆弾は、攻撃する相手を自ら選ぶことはなかった。しかし、AIには自ら行動する能力が備わっている。AIはArtificial Intelligence(人工知能)の略称だが、今やAlien Intelligence(異質な知能)として理解されるべきという。
二〇一三年にアメリカのウィスコンシン州で発生した銃撃事件で逮捕された男性は、アルゴリズムによって再犯のリスクが高いと判断され、六年の懲役刑を受けた。二〇一六年から翌年にかけて、反ロヒンギャの暴動を助長したのもアルゴリズムであった。フェイスブックのアルゴリズムは、仏僧ウィラトゥの憎悪に満ちた投稿を何十万ものミャンマー人に繰り返し推奨し、その結果、人工知能によって引き起こされた史上初の組織的な民族浄化運動につながった。
情報は真実そのものではない。聖書が何十億人を結びつけたように、情報は人や物を結ぶ社会的なつながり(ネクサス)である。AIという情報ネットワークの新メンバーの扱いを誤れば、人間の地球支配が終わり、人間の意識が消し去られる危険性がある。古代から現在までの情報史を概説した本書は、前例のない危機を正しく認識し、その回避が人間の責任であると訴える、AI時代の必読書である。柴田裕之訳。(河出書房新社、上下各2200円)