<書評>『私たちは何を捨てているのか 食品ロス、コロナ、気候変動』井出留美 著

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私たちは何を捨てているのか

『私たちは何を捨てているのか』

著者
井出 留美 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784480076779
発売日
2025/03/10
価格
1,012円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『私たちは何を捨てているのか 食品ロス、コロナ、気候変動』井出留美 著

[レビュアー] 高橋真樹(ノンフィクションライター)

◆無駄を生む歪んだ仕組み

 食品ロスの問題は知られるようになったが、それが気候変動の大きな原因となっていることは、ほとんど知られていない。しかし、世界中から出る食品ロスによる温室効果ガスの排出量を国に見立てると、中国、米国に次いで世界第3位の量にもなるという。

 食品ロス問題の第一人者が手がけた本書は、私たちの出した食品ロスが何をもたらしているかという「不都合な真実」を、豊富なデータを用いて明らかにしている。

 現代の食料システムは、極めて持続不可能だ。生物多様性を損ない、水を過剰に利用し、莫大なエネルギーを使うなど、多大な環境負荷をかけて生産・加工・流通しているにも関わらず、そのおよそ3割から4割を食べることなく捨てている。

 特に、食料自給率の低い日本は、欧米各国の4~6倍ものフードマイレージをかけ輸入しているのに、世界の人々への食糧支援を上回る量を毎年捨てている。その上、日本は食品ロスなどからなる生ごみのリサイクル率が極めて低く、とにかく燃やす。ごみの焼却率(80%)も、焼却施設の数(1016)もOECD諸国ではダントツ1位で、無駄なコストを払って気候変動を悪化させている。食品ロスは、水ロス、エネルギーロス、環境破壊、そして経済損失そのものだ。

 ではどうすれば? 国内外での丹念な取材に裏打ちされた本書は、そんな疑問にも明快に答えてくれる。食品廃棄物のリサイクル率を2%から98%にまで高めた韓国、ごみを「量る」仕組みを導入して食品ロスを半減させたレストラン、食品ロスを削減しつつ売り上げを伸ばしたスーパーなど、数々の取り組みを紹介しながら、食品ロスの削減が私たちの社会の歪(ゆが)んだ仕組みを問い直すことを教えてくれる。

 日本は、一度決まった仕組みを変えるのが難しい国だ。しかしその「当たり前」を見直せば、経済的にも得をする。それを知ることが、今日からの行動を変える力になる。食に関わらない人は一人もいない。すべての人にお勧めしたい。

(ちくま新書・1012円)

食品ロス問題ジャーナリスト。『賞味期限のウソ』など。

◆もう1冊

『おてらおやつクラブ物語 子どもの貧困のない社会をめざして』井出留美著(旬報社) 

中日新聞 東京新聞
2025年5月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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