『ノストラダムスの大予言』
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一九九九の年、七の月 空から恐怖の大王が降ってくるだろう
[レビュアー] 野崎歓(仏文学者・東京大学教授)
名著には、印象的な一節がある。
そんな一節をテーマにあわせて書評家が紹介する『週刊新潮』の名物連載、「読書会の付箋(ふせん)」。
今回のテーマは「占い」です。選ばれた名著は…?
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古来、占いは天体や自然に関する該博な知があってこそなせる業だった。また真の詩人は神に霊感を吹き込まれた予言者であるとする考えはプラトンに遡る。ノストラダムスの予言集が四行詩の集成からなるのも、彼が古式に倣う16世紀ルネサンス人だったからだ。
その難解な詩句が、はるかのちの日本社会を震撼させた。それはひとえに1973年、五島勉が『ノストラダムスの大予言』を刊行したことによる。
「一九九九の年、七の月/空から恐怖の大王が降ってくるだろう」
五島はこれを「核戦争」ないし「超汚染」による世界の滅亡の予言だとし、衝撃を与えたのである。
この詩句をめぐって近年、学術的な再検討が進んでいる。「恐怖の(デフレイユール)大王」は実は「世話役たる大王」と解釈すべきで、カール五世の善行を暗示したものだとする説を英国の専門家が提唱した。
それに対し、気鋭のノストラダムス学者、鈴木大輔氏は、やはり「恐怖の大王」と読むべきではと説く。中世以来の伝承を踏まえ、千年王国到来の際に異教徒たちを打ち倒す(彼らを「恐怖」させる)「天使教皇」を指す表現だというのである。その後、世には平和がもたらされる。詳細は氏の仏文学会論文「『恐怖の大王』か、『世話役たる大王』か」をネットでご参照あれ。
いずれにせよ、1999年に世界が破滅するという解釈は到底成り立たない。日本での大騒ぎはノストラダムスにも予想できなかったに違いない。