『落雷と祝福』
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『落雷と祝福 「好き」に生かされる短歌とエッセイ』岡本真帆著
[レビュアー] 金沢百枝(美術史家・多摩美術大教授)
18の「好き」なものについての短歌とエッセイは、五月の木漏れ日のようにキラキラ眩(まぶ)しい。それらは、アニメ映画版『スラムダンク』から、アイヌの少女と日露戦争の帰還兵の壮絶な旅を描く『ゴールデンカムイ』、インド映画『RRR』のほか、ぬいぐるみ、グミ、酒、短歌、バンド「スピッツ」等。誰もが好きなものばかりだが、著者は軽い共感を求めてはいない。どこがどのように好きなのか、「好き」の突き詰め方が半端ない。それは自分の「好き」を31文字におさめる歌人としての矜(きょう)持(じ)と重なるからだろう。
もう作れない歌がある曇天の空に透かしてみるシーグラス
「今」は瞬く間に過去になるので、「その時」を捉える歌人は崖っぷちにいる。だからこそ「俺は不死身の杉元だ」と叫んで危機を切り抜け、選手生命を犠牲にしてバスケの試合に勝つことを優先する登場人物に寄り添う。本名で歌人と名乗ることを決意した著者の真(しん)摯(し)な願いが籠もった一冊だった。短歌の作り方Q&A付き。(朝日新聞出版、1870円)