『可視化される差別』
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『可視化される差別』五十嵐彰著
[レビュアー] 佐橋亮(国際政治学者・東京大教授)
差別のない社会はどれほど素晴らしいものだろう。民族や宗教、出自、学歴などで偏見をもたれず、不利な取り扱いもない社会では、きっと誰の目も輝いている。しかし、人の世は差別行為にあふれている。
本書は差別と、その原因でもある排外主義について、心理学、社会学、経済学等(など)で蓄積された知見や実験を体系的に紹介する。差別をめぐる表面的な理解をリセットしてくれる。
差別は企業活動に負の影響を与えるだけでなく、個人の教育、さらに健康に深刻な影響を与える。自集団が差別を受けているときに低出生体重児が増えるとの結果を見たとき、1人の親として心がかき乱された。
排外主義は脅威を感じるときやナショナリズムの高まりだけでなく、SNSで情報に触れても強まる。
どうしたら差別や排外主義を克服できるのか。本書が教えるように、異なる集団との接触を増やし、互いを包摂する新たな認識の枠組みを設け、誤った認識を正す情報を与えることが鍵となる。
本書末尾で著者は日本社会に潜む排外主義と差別の課題を述べる。必読である。(新泉社、3850円)