『NVIDIA(エヌビディア)大解剖』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
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『The Nvidia Way エヌビディアの流儀』
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『NVIDIA(エヌビディア)大解剖』島津翔著/『The Nvidia Way エヌビディアの流儀』テイ・キム著
[レビュアー] 宮内悠介(作家)
半導体企業の「謎解き」
かっこいいゲームを動かしたかった。最初はそれだけだった――というのは、さすがに感傷的すぎるだろうか。いずれにせよ、かっこいい3Dゲームを動かすためのボードはやがて暗号通貨の採掘に用いられ、AIに用いられ、そのメーカーを世界一の半導体企業へと押し上げた。言わずと知れた、米国NVIDIA社だ。
『NVIDIA大解剖』の島津氏が同社を「謎のAI半導体メーカー」と記事に書いて、一部読者から叱られたのはもう八年前のこと。しかし実際のところ、iPhoneのような目に見えてわかりやすい製品は同社にない。NVIDIAが具体的にどうすごいのかきちんと説明できる人は少数派だろうし、その意味で「謎」というのは必ずしも間違っていないだろう。
あらためて、NVIDIAとはいったいなんなのか。一冊の本でありとあらゆることを網羅することは当然できないので、今回は、好対照に思えた二冊をご紹介したい。
入口としておすすめしたいのは、先述の『NVIDIA大解剖』だ。彼らがいったい何を作っているのか、どういう経営方針なのか、未来はどうかなど、NVIDIAを理解する上で、さまざまな角度からコンパクトに要点を押さえてくれる。最初の製品で失敗して倒産寸前だったところに、セガ社が五百万ドルを投資して救ってくれたという、みんなが大好きなエピソードが入っているのも、こちらの一冊になる。
対して、おそらくははじめてとなる通史的な本が『The Nvidia Way エヌビディアの流儀』となる。こちらは細かなエピソードが多数掲載されていて、CEOのジェンスン・フアンが、創業時メンバーであるカーティス・プリエムやクリス・マラコウスキーとともにデニーズで打ち合わせを重ねるくだりなどは、人の青春期にも似たスタートアップ特有の熱気を感じさせ、胸に迫るものがある。だから、のちに訪れる別れの場面はとても苦い。千葉敏生訳。(日経BP、1980円/ダイヤモンド社、2640円)