【聞きたい。】上岡伸雄さん 『東京大空襲を指揮した男 カーティス・ルメイ』

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東京大空襲を指揮した男 カーティス・ルメイ

『東京大空襲を指揮した男 カーティス・ルメイ』

著者
上岡 伸雄 [著]
出版社
早川書房
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784153400399
発売日
2025/02/19
価格
1,364円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【聞きたい。】上岡伸雄さん 『東京大空襲を指揮した男 カーティス・ルメイ』

[文] 斎藤浩(産経新聞社)


上岡伸雄さん

■日本初の伝記 叙勲の是非問う

東京大空襲から80年が過ぎた。昭和20年3月10日、低空飛行するB29爆撃機から投下された焼夷(しょうい)弾で東京の下町が焦土と化し、一晩で10万人が命を落したとされる。

指揮したのはカーティス・ルメイ(1906~90年)。米陸軍航空軍の将軍として、わが国の主要都市への無差別爆撃も進めた人物の、日本では初という伝記を刊行した。

現代米国文学を研究し、作家のカート・ヴォネガットらの著作でルメイを知った。映画監督のオリバー・ストーンの作品で悪魔のように描かれ、興味が増した。「文学とは人間に迫ること」。米国の文献を掘り下げた。

日本でルメイを語るとき、佐藤栄作内閣が昭和39年に勲一等旭日大綬章を授与した事実は避けて通れない。航空自衛隊の創設と発展への貢献が理由だ。これを知って「日本を焼け野原にした責任者に勲章を贈るとは」と驚いた。「多くの日本人が怒ったに違いない」と当時の全国紙を調べるも、扱いは小さかった。

叙勲の是非を巡って、当時は原爆投下への関与が焦点になり、国会では防衛庁長官が「直接の責任者ではない」と答弁。週刊誌も適否を「原爆投下の司令官だったのかどうか」に絞り、東京大空襲の指揮は不問に。「大空襲即日の死者数は原爆投下直後の広島や長崎を上回るが、原爆は特殊視された」と疑問を投げる。

その後も東京都知事時代の石原慎太郎が「こんな(勲章を贈る)ばかげた国はない」と発言するなど、保守から革新までが問題にしたが、大きなうねりにはなっていない。そのためか、「ルメイの名が広く日本で知られているとは言い難い」とみる。

ルメイは、戦争に参加してしまったら相手を痛めつけ、早めに終わらせたほうが結果的に双方の犠牲者は少なくなるという合理主義者、実用主義者だった。「戦争(真珠湾攻撃)をしかけてきたのは日本」と正当化し、武器製造を支える工場が点在するとして住宅地の無差別爆撃を激化させ、戦後創設された米空軍のトップに昇進した。日本にかかわりの深いルメイの人生は「日本人に戦争へのさまざまな問いを投げかけている」と話す。(ハヤカワ新書・1364円)

斎藤浩

   ◇

【プロフィル】上岡伸雄

かみおか・のぶお 学習院大教授、翻訳家。昭和33年生まれ、東京都出身。著書に『テロと文学』など。米国の公民権運動指導者、マーティン・ルーサー・キング牧師の演説集の出版を予定している。

産経新聞
2025年5月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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