<書評>『わたしたちはどう生きるのか JR福知山線脱線事故から20年』木村奈緒、小椋聡 編著、福田裕子、只野哲也ほか 著

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<書評>『わたしたちはどう生きるのか JR福知山線脱線事故から20年』木村奈緒、小椋聡 編著、福田裕子、只野哲也ほか 著

[レビュアー] 河原理子(ジャーナリスト)


『わたしたちはどう生きるのか JR福知山線脱線事故から20年』

◆苦悩の先に 豊かな命

 あの事故について、というよりも、生きることについての本である。

 2両目に乗っていて負傷した小椋聡さんが描いた絵を、東京のライター木村奈緒さんが事故9年の番組で見たのが始まりだ。心がざわつき小椋さんに連絡。美大生で1両目にいた福田裕子さんともつながり、「事故から10年」展を東京で開いた。さらに、東日本大震災のとき大川小にいた只野哲也さんが加わって、昨秋、東京で講演会を開催。そのそれぞれの語りがこの本の基礎になっている。

 「奇跡の○○」といったラベルを排して語られる当事者の現実は、圧倒的だ。困難はむしろ後からやって来る。苦悩の先に得るものもある。だがこの本の特徴は、当事者以外に開かれていることだ。時間を共にした記者たち、弁護士、JR西日本の元社員らが文章を寄せている。

 外からは見えにくい相互作用があり、気づきがもたらされたことがわかる。例えば小椋さんの、ある取材体験。取材者はカメラマンの後ろで涙を流していた。彼女は大切な人を突然亡くした経験があった。彼女の問いに答えながら、小椋さんの口から、用意していなかったこんな言葉が出たという。

 私たち遺(のこ)された人間は、この経験を通じて、私の人生が豊かになりましたという生き方をしたい。

 生き残ったことの重荷を背負うのだと考えていた小椋さんが、この結論に至るまで、13年かかった。

 JR元社員の「伴走者としての思い」も印象深い。小椋家担当になり、会社の意向をにらみながら10年展では十分な対応ができず、禍根となる。一方で、被害にあった人々の、想像を超える苦闘と努力に「ほとばしるような命の力」を感じ、自分が開かれていく。

 生きることは誰もが当事者で、困難がふりかかることもありうる。「それでも生きることは素晴らしい」という本の帯のメッセージは、だから私たち皆への贈り物だ。

※本書はコトノ出版舎の通販サイトとアマゾンで発売。

(コトノ出版舎・1980円)

木村 1988年生まれ。メーカー勤務を経てフリーライター。

◆もう1冊

『それでも人生にYesと言うために』柳田邦男著(文芸春秋)

中日新聞 東京新聞
2025年5月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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