『東大生はなぜコンサルを目指すのか』
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レジ―『東大生はなぜコンサルを目指すのか』をTaiTanさんが読む
[レビュアー] TaiTan(ラッパー)
虚無のもがき
へずまりゅうがいい奴になっているらしい。『奈良公園の鹿さんを守りたい』と題されたYouTuberヒカルのチャンネルでは、更生した氏への密着動画が公開されている。概要としては、かつて迷惑系YouTuberとして悪行を繰り返したから、今度は善行を積んで社会に貢献したいのだという。その目をみるに、ギャグじゃなく、どうやらマジらしいというのは視聴者の直感としてなんとなくわかる。だが、そのマジさに虚無を感じるのも、こちらとしては同時にマジなのだった。
本書が描く“コンサルを目指す東大生”とへずまりゅうは、私の中で同一線上にいる。いや、なんなら外資系就活を無双せんとする学生も、TikTokのバイラルから逆算でヒット曲をつくろうとする新時代シンガーもM-1を競技的にハックしようとする漫才戦士も、似たような精神性を内面化している。かくいう私にだってちゃんと身に覚えがある。成長や数字を追い求めた結果、そもそもの「なんでやりたいんだっけ? 」の問いに応答できなくなるのだ。
しかし、社会はそんな哲学じみた問答には彼らを付き合わせない。とにかく余計なことを考えず「成長に囚(とら)われろ」と若者を鼓舞し続ける。本田圭佑が登場する広告はすべからく一様に「成長しろ」としか言っていない。そんな街に暮らしていれば、こちらとしてもまあそんなものか? と錯覚してくる。それに、彼らにだって内発的にやりたいことなんて端からないのだ。やりたいことなんてないなりに、社会の手触りを求めてマジになれる場所を探して彷徨(さまよ)い、その環境に成長を通して適応しながら、身体の疲労に安心感を覚えたいだけなのだ。なんとも虚無的、と思う。思うけれども、その虚無のもがきはいかにも人間的で面白くはある。特にAI時代以降はその人間らしさこそが大事だとすら思う。そうした若者の生態系全体を、冷笑も肩入れもせず活写する著者の筆致は、同世代を生きるものとして納得感があった。
TaiTan
たいたん●ラッパー